ベートーヴェンな憂鬱症
1988年/講談社
1991年/講談社文庫
■お気に入り指数 ★★★★
■お薦め度 ★★★★
■あらすじ
85年に出版された『モーツァルトは子守唄を歌わない』で描かれた時代の前後のエピソードが収録されている短編集。

ピアニストを台所へ入れるな
ベートーヴェンの部屋でピアニストが死んだ。彼の断末魔の叫びはアパート中に響き渡った。「よくもやったな!ベートーヴェン!」
状況証拠から冤罪を被るベートーヴェン。そこへ死んだピアニストの弟子のチェルニーが現れる。

マリアの涙は何故、苦い
ドガディ教会のマリア像が涙を流す?しかもマリア像に関わった人間が次々と死んでいく。調査を進めるうちに、かつての恋人ジュリエッタも絡んできて……。

にぎわいの季節へ
王女を救い出して欲しい。突然ベートーヴェンの元へ舞い降りた依頼。ある時はオーダーメイドオルゴールを使って、ある時は気球に乗って、ベートーヴェンは奔走する。

わが子に愛の夢を
突然ベートーヴェンの前に現れた2人の子供。聞けばジュリエッタとベートーヴェンの愛の結晶だという。そんな時、チェルニーが弟子を連れてきた。フランツ・リスト……。嫌な予感である。
■感想
日本でベートーヴェンを描かせたら、やっぱり森さんが一番である。

ピアニストを台所へ入れるな
事件とはあまり関係無いけれど、『ピアノソナタ月光』の献呈エピソードが盛り込まれている。ベートーヴェンは"下手なジュリエッタでも弾けるピアノソナタ"として月光を作ったらしい。が、果たしてベートーヴェンは本当に第3楽章をジュリエッタが弾けると思ったのだろうか。それともベートーヴェンの"下手"の基準は我々の"神業"程度なんだろうか。謎である(笑)。

マリアの涙は何故、苦い
事件の推理は冴えるベートーヴェン。だけど恋の方は……。楽聖の勘違いが可愛らしい作品。

にぎわいの季節へ
ベートーヴェンは作曲だけでなく、ハード・ボイルドもやってのける。収録四作品の中で一番長く、ボリュームがあると思う。

わが子に愛の夢を
私が一番気に入ってる話。この頃のベートーヴェンは耳がほとんど聞こえなくなっているので、筆談になっている。ここまで散々扱下ろされたジュリエッタが最後に少しだけ魅力的に描かれているところが好き。あと、この人のこのセリフも。

「僕はね、先生。音楽史の上で、その作品が演奏される回数において最多記録保持者たる作曲家を目指してるんです。人前で弾かれるかどうかは別としてね。」
byチェルニー