赤い指
作品DATA
赤い指
  • 出版社 講談社(ISBN:4062135264)
  • 発刊日 2006/07/25
  • 文庫化 未定
  • 文庫発刊日 未定
  • Detail 直木賞受賞第一作
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆☆
作品Outline
就業時間が過ぎたにも関わらず、オフィスに居残っていた前原昭雄の元に、妻の八重子から電話が入った。「早く帰って来て欲しい」と告げるその声からは、猶予ならない気配が窺える。
前原昭雄にとって、「家庭」は安らぎを与えてくれる場所とは言い難い存在になっていた。 同居している義母の政恵を疎んじ、夫を詰る続ける八重子。親和性に欠ける前原夫妻の一人息子、直巳。
前原は、自分の家が抱える火種の多さを憂いながら家路を急いだ。

帰宅した前原は、予想だにしない光景に言葉を失う。
自宅の庭に投げ出された黒いビニール袋からは、白い靴下を履いた小さな足が覗いていた。

加賀恭一郎シリーズ第7弾の、長編書き下ろし小説。

作品Review
直木賞受賞第一作となった『赤い指』は、『小説現代'99年12月号』に短編として発表された作品を、長編に書き改められたものです。
この間の経緯を、作者は以下のように語っています。
『赤い指』はその中(2000年に刊行された『嘘をもうひとつだけ』)では最後となる六つ目の作品になるはずでした。ただ、書き終えた時点で、これは短編ではなかったとすぐに思ったんです。
その後、短編集をまとめるにあたって当時の担当編集者と話をしました。

作者「実は、『赤い指』は短編じゃないなと思ったんだけど……」
編集者「私もそう思いました」
作者「この作品を何とか長編にしたい」
編集者「ぜひ、そうしましょう」

その時点で『赤い指』を短編集からはずしたんですね。「やりましょう」と言ったはいいものの、延びに延びて六年以上もかかってしまいました(笑)。

『小説現代'06年8月号』のインタビュー記事より転載
私は短編の『赤い指』を読む機会に恵まれませんでしたが、今はそれを僥倖と感じています。
展開を知らなかったからこそ、より大きな感動を得ることができた、と思えるような作品だったためです。『嘘をもうひとつだけ』や『小説現代』に不定期連載されている加賀恭一郎短編シリーズでは味わうことのできない、深みのある人間ドラマを堪能することができました。

『赤い指』は、加賀恭一郎の従弟である松宮脩平と、我が子が犯した大罪――女児殺害の事実を糊塗するために戦々恐々となる父親の視点を通して語り継がれて行きます。

警視庁捜査一課に勤務する松宮脩平は、加賀の父親である伯父を、実父のように敬愛しています。父親が早世してしまった松宮にとっての伯父、加賀隆正は、庇護者であると同時に、良き先達でもありました。
そのために松宮は、予後不良の病に冒され、死の床に就く伯父の元を訪ねようとしない従兄(加賀恭一郎)に、大きな不満を抱くことになります。
加賀の父親に対する態度は、このシリーズを読み続けている者にとっても、釈然としないものがありました。加賀父子には、周囲を羨ましがらせるような仄々とした雰囲気こそなかったものの、読者からは、二人の強い心の絆がしっかりと見て取れたからです。
加賀父子の間に一体何があったのだろうと、侘しい思いを募らせながら読み進めることになりましたが、この疑念は、意外な形で晴らされることになります。

本書の準主役とも言える前原昭雄に家長としての偏差値を付けるとしたら、50±2というところでしょうか。
前原は、人並みの常識や優しさを持った人物ですが、凡人にありがちな悪癖――煩わしいことには目を瞑り、結論を先延ばしにする傾向が見受けられる男性でもありました。
彼は、息子が犯した女児殺人の事実を知っても、毅然とした態度を取ることができません。被害家族の悲嘆に思いを馳せ、心を震わせますが、自分達の利害しか考えられない妻や、反省の色が見えない息子に対し、家長としての務めを全うできないばかりか、更なる非道にも手を染めてしまいます。

幼い女の子の命が絶たれただけでなく、犯人や担当刑事の家族にも重苦しい人間ドラマが潜んでいるために、暗澹たる思いを抱きながら読み進めることになる『赤い指』ですが、意外にも読後感は悪くありません。
家族のあり方を再考する機会と、加賀恭一郎の新たな魅力に触れる時間を与えてくれた作品でした。

2006年07月25日に更新
『赤い指』の登場人物一覧
加賀恭一郎(30代半ば) 練馬警察署勤務の刑事
加賀隆正:加賀恭一郎の父親・元警察官 / 松宮脩平:加賀恭一郎の従弟・警視庁捜査一課勤務 / 松宮克子:脩平の母親・加賀隆正の実妹 / 金森登紀子:看護師・加賀隆正を担当 / 前原昭雄:照明器具メーカー勤務 / 前原八重子:前原昭雄の妻 / 前原直巳:前原昭雄の一人息子・中学三年生 / 前原章一郎:故人・前原昭雄の実父 / 前原政恵:前原昭雄の実母 / 田島春美:前原昭雄の実妹 / 春日井優菜:公園の男子トイレで遺体となって発見される・小学二年生 / 春日井忠彦:春日井優菜の父親 / 春日井奈津子:春日井優菜の母親 / 山本:前原昭雄の同僚 / 山田:春日井優菜が殺害された公園付近に住む住人 / 太田:前原家の向かい側に居を構える住人 / 田中:前原家の隣人 / 坂上:警視庁捜査一課勤務・松宮脩平の先輩刑事・事件の担当捜査官 / 小林:警視庁捜査一課勤務・松宮脩平の上司・主任・事件の担当捜査官 / 石垣:警視庁捜査一課勤務・松宮脩平の上司・係長・事件の担当捜査官 / 牧村:練馬警察署勤務・事件の担当捜査官