時生(原題はトキオ)
作品DATA
トキオ
  • 出版社 講談社(ISBN:4062113279)
  • 発刊日 2002/07/18
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4062751666)
  • 文庫発刊日2005/08/11
  • Detail 2004年にNHKでドラマ化
    トキオ-父への伝言-(主演:国分太一・櫻井 翔)

  • 文庫化の際に改題。原題は『トキオ』。
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆☆
作品Outline
宮本拓実と妻の麗子は、生命維持装置に支えられながら最期を待つ息子の姿を見守っていた。回復の見込みはない。夫妻の息子、時生は、グレゴリウス症候群を罹患していた。脳神経が次々に死滅していく遺伝病で、有効な治療法はまだ見つかっていない。
集中治療室の外で「その時」を待つ麗子に、拓実は耳を疑うような言葉を告げた。 「ずっと昔、俺はあいつ(時生)に会ってるんだ」―。
拓実は、23歳だった自分に、時を越えて会いに来た息子の事を語り始める。

超自然現象を背景にした異色サスペンス。

作品Review
作者の東野圭吾さんは、この作品に対して以下のようなコメントを残しています。
アホな男の話を書こう、と思った。
本作の主人公宮本拓実は本当にアホである。アホを書くのは楽しい。たぶん自分の中にあるいろいろな封印が解かれるからだろうな。(後略)
確かに宮本拓実はアホな男です。
長編小説の主役には、似付かわしくない男性です。
ただ、もし彼がアホな男じゃなければ―、『ゲームの名は誘拐』の佐久間俊介のような切れ者であったり、『秘密』の杉田平介のような、真面目で善良な人物だったりすれば、この物語の面白さは半減してしまったでしょう。
時生が拓実のダメっぷりに驚いたり呆れたりするシーンが、読む者をほのぼのとした気分にさせてくれます。 拓実がアホな男だったからこそ、息子が父親を成長させるというタイムパラドックスの面白さを、十分に堪能する事ができたのだと思います。

本作は、2004年初秋に、NHKでドラマ化されました。
母親が病院に詰めていなかったり、早瀬千鶴が巻き込まれた事件の概要が違ったものになっていたりと、かなりな変更箇所がありましたが、この物語の根幹となるテーマまでが曖昧に処理されてしまったのは、とても残念な事でした。
『時生(トキオ)』では、「生まれてきて良かったと思うか?」という問いが重要な意味を持ちます。時生は、その回答を行動で提示しました。ところが、彼の想いが痛い程に伝わって来るこの行為が、ドラマ版では省略されていたのです。
千鶴が関わったトラブルも、時生の回答ともなる出来事も、実際に起った事件をモチーフにしたものでした。それが、支障となって表現仕切れなかったのかもしれませんが、もう一工夫欲しかったところです。
ドラマ版の『時生(トキオ)』しか知らない方には、是非にも原作をお読みいただきたいと思います。原作には、『トキオ-父への伝言-』では味わえなかった感慨が、たくさん詰まっていますから―。

東野圭吾さんの作品は、刊行日に購入し、その日の内に読み始めるのを常としていますが、この作品に限って言えば、一ヶ月近くも積読状態になっていました。
主人公の息子が治癒を望めない難病に罹患しているという事実が、表紙を開く事をためらわせました。
グレゴリウス症候群に類似した症状と結果を持つ病気は少なからず存在しますし、そうした病に苦しむ人々の感情を、フィクションの世界で疑似体験する事には抵抗があります。
遺伝子治療が大きな成果を上げ、時生にもたらされた運命の悲哀が、過去の出来事となる日が来る事を願わずにはいられません。

単行本の読者が慣れ親しんだタイトル『トキオ』が、文庫化の際に『時生』と改題されました。
その理由が書かれていないかと「IN・POCKET 2005年8月号」を購入しましたが、関連事項の記載はありませんでした。
深い感動を呼び起こす最後の一行、あの拓実の台詞に似合うタイトルは『トキオ』の方だと思う私は、何とも未練がましい読者です。

2005年8月25日に更新
『時生』の登場人物一覧
宮本拓実 通信事業の会社に勤務
宮本麗子:拓実の妻 / 宮本時生:拓実の息子 / 中西:拓実のアルバイト先の上司(1979年当時) / 早瀬千鶴:拓実のガールフレンド(1979年当時) / 宮本邦夫:拓実の養父 / 宮本達子:拓実の養母 / 東條須美子:拓実の実母 / 東條淳子:須美子の義理の娘 / イシハラ:失踪した千鶴の行方を捜している男 / オカベ:千鶴と共に失踪した男 / タカクラ:失踪した千鶴の行方を捜している男 / 爪塚夢作男:漫画家・本名は柿沢巧 / 坂本清美:宗右衛門町のスナック「ボンバ」の経営者 / 坂田竹美:清美の娘・千鶴の友人 / ジェシー:竹美のボーイフレンド / テツオ:ホルモン焼き屋の店主・竹美の友人 / 荒川屋:質屋・千鶴が質草を持って訪れた店 / ヒヨシ:イシハラの手下 / 麻岡家の老婆:拓実の祖母 / 川辺玲二:水難事故で亡くなった大学生