使命と魂のリミット
作品DATA
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  • 出版社 新潮社(ISBN:4103031719)
  • 発刊日 2006/12/05
  • 文庫化 未定
  • 文庫発刊日 未定
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
氷室夕紀の父親、健介は、胸部大動脈瘤切除の手術中に帰らぬ人となった。
健介は中学生の我が子に、「人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っている」と言い残していた。父親の言葉を胸に深く刻み込んだ夕紀は、自身に課せられた使命を果たすため、医学の道を志す。しかしその決意の背景には、誰にも明かせぬ大きな屈託と目論見が潜んでいた。

帝都大学病院心臓血管外科に勤務する研修医の氷室夕紀は、病院敷地内で、何者かが病院に宛てた脅迫文を発見する。そこには、「病院を破壊する」という文字が記されていた。

情熱と煩悶、エゴを内包した大学病院を舞台に、緊迫感溢れるやり取りが繰り広げられる医療サスペンス。

作品Review
簡潔な題名が多い東野圭吾作品の中にあっては、異彩を放つネーミングという思いを強くする本書ですが、読み終えてみれば、物語の展開をこれ程までに的確に言い表したタイトルは他になかったかもしれない、という印象が残りました。
登場人物一人一人が持つ「使命」と「魂」の連動が、緊迫感溢れる筆致で描き出されていく作品です。
この「使命」は、倫理観や正義感に裏打ちされたものではないため、読者の中に醸成される感情も、千差万別の色合いを帯びて行くことでしょう。
けれども、行間には、「あなたは、自分に課せられた『使命』を果たしていますか?」というメッセージが見え隠れするため、その問い掛けを反芻している時間だけは、同じ気持ちを共有できているのかもしれないと思いました。

主人公である氷室夕紀は、父親に施された胸部大動脈瘤切除手術に疑念を抱いています。
彼女は、父親と同じ病気で苦しむ人々の一助を担いたい・父の死にまつわる不信感を解消したいという願いから、心臓外科医を志すこととなりました。

帝都大学病院心臓血管外科の研修医となった夕紀は、自分に課した「使命」の一つが果たされる機会を得ますが、それを阻もうとするかのような事態に巻き込まれます。
一人の人間の深慮謀略により、帝都大学病院は、存亡を賭けるような窮地に立たされてしまいました。
しかし、この犯人の行為もまた、自分の「使命」に殉じたものでした。

病院が舞台となった作品であることから、本書を手にするまでは、『宿命』『変身』『分身』に類似した世界観を持つ物語かもしれないという思いがありました。
ところが意外にも、読後感は『天空の蜂』に近いものでした。

ラストシーンでは、多分作者にはそんな意図などなかったでしょうが、泣かされてしまいました。

東野圭吾作品ではお馴染みとなった帝都大学――、付属の大学病院には、『白夜行』の登場人物が薬剤師として勤務していましたが、本書での再会は果たせませんでした。
事件を見守る野次馬の中に、理工学部物理学科の湯川学助教授の姿はないものかと探しましたが、こちらも見つけることは叶いませんでした。
短編でも良いので、『帝都大学物語』を上梓して貰えぬものかと思うのですが、如何なものでしょう?

2006年12月7日にup
『使命と魂のリミット』登場人物一覧
氷室夕紀 研修医
帝都大学病院心臓血管外科勤務
氷室健介:故人・夕紀の父親・胸部大動脈瘤の切除手術中に死去 / 氷室百合恵:夕紀の母親 / 西園陽平:医師・帝都大学病院心臓血管外科の教授 / 元宮誠一:医師・帝都大学病院心臓血管外科勤務 / 山内肇:夕紀の指導医・帝都大学病院心臓血管外科勤務 / 福島:医師・帝都大学病院勤務 / 小野川:医師・帝都大学病院外科の教授・病院長 / 佐山:医師・帝都大学病院麻酔科勤務 / 真瀬望:看護師・帝都大学病院心臓血管外科勤務 / 菅沼庸子:看護師・帝都大学病院心臓血管外科勤務 / 松田:看護師・帝都大学病院心臓血管外科勤務 / 山本明子:看護師・帝都大学病院手術室勤務 / 笠木:帝都大学病院の事務長 / 田村:臨床工学技士・帝都大学病院勤務 / 吉岡:臨床工学技士・帝都大学病院勤務 / 直井穣治:電子機器メーカーの技術者・身分を偽り真瀬望に接近 / 西園道孝:西園陽平の息子・コンピュータグラフィックスの技術者 / 西園稔:故人・西園陽平の息子・交通事故で死亡 / 中塚芳恵:帝都大学病院心臓血管外科の入院患者 / 森本久美:中塚芳恵の娘・他家に嫁いでいる / 島原総一郎:帝都大学病院心臓血管外科の入院患者・国内最大級の自動車メーカーであるアリマ自動車の社長・政財界に大きな発言力を持つ / 岡部:島原の秘書 / 神原春菜:故人・フリーのノンフィクションライター / 加藤和夫:故人・帝都大学病院心臓血管外科の入院患者 / 小阪:新聞記者 / 望月亜紀:欠陥自動車が引き起こした事故で死亡・父親は被害者の会の代表 / 富田和夫:弁護士・欠陥自動車被害者の会の補償交渉に携わる / 七尾行成:事件の担当捜査官・警視庁特殊班捜査二係勤務 / 坂本:事件の担当捜査官・警視庁特殊班捜査二係勤務 / 児玉:事件の担当捜査官・中央署勤務・警部補 / 本間和義:事件の担当捜査官・警視庁特殊班捜査二係を統括 / 野口:事件の担当捜査官・警視庁特殊班捜査二係勤務 / 寺坂:事件の担当捜査官・警視庁特殊班捜査二係勤務 / 片岡:事件の担当捜査官・警視庁鑑識課員