たぶん最後の御挨拶
作品DATA
  • 出版社 文藝春秋社(ISBN:4163688107)
  • 発刊日 2007/01/30
  • 文庫化 未定
  • 文庫発刊日 未定
  • Detail たぶん最後のエッセイ集
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
著者にとっては5作目となるエッセイ集。『あとがき』には、「私が出すエッセイ集は、おそらくこれが最後です」と記されている。
年譜・自作解説・テーマ別のエッセイから成る本作では、1985年のデビューから直木賞受賞で沸いた2006年に至る悲喜こもごもの日々が軽妙洒脱な筆致で語り綴られて行く。ファン必見の東野圭吾カタログ。
作品Review
タイトル通りの内容であったこと――たぶんこれが最後のエッセイ集になってしまうこと――には、驚きを禁じ得ませんでした。

『あとがき』の中で東野さんは、「俺の読者はこんなもの(エッセイ)を待っているだろうか」という思いに駆られたと記しています。そう、確かに私の場合、以前はエッセイを心待ちにするというような状況にはありませんでした。
そもそも、エッセイを意識的に避けていた時期もありました。作品の向こう側に著者の影が見えてしまっては、小説の面白さが減殺するように思えたからです。
けれども近年はその状況が様変わりしていました。
社会問題を題材にした作品では、エッセイという補助線を得て、作者の企図するものがより明確になる場合が少なくなかったためです。

最新作である『使命と魂のリミット』に関しては以下のように記されていました。

母親が大動脈瘤と癌の両方を抱えて逝去した。どちらも切除できなかった医師に対する不満は全くない。(中略)
医学ミステリは書けないから、医療への期待を描こうと思った
『使命と魂のリミット』のネタばらしになるので詳細は書けませんが、既読の皆さんの多くが「なるほど、そういうことだったのか!」と膝を打たれたのではないでしょうか?

宮本拓実(『トキオ』主人公)のダメっぷり呆れ、芳しくない読後感を得た方から、「ダメな男の成長物語を書こうと思った」という執筆意図を知って考えを改めた、再読の際には充分な満足感を得ることができた、と伺ったことがあります。
作品の中に込められた作者の思いを読者が過不足なく汲み取ることは、多分不可能だと思います。また、その必要もないでしょう。ただ、作者の思いを知ることで、満足度が倍加するケースは確かにあります。
エッセイ集には、個々の作品の面白さや楽しさを脹らませる要素が詰まっていると思いますし、公式ホームページが稼動していない現状では、とても重要な役割を担う存在であったようにも思います。

また、『さいえんす?』・『夢はトリノをかけめぐる』にはネタ本としての要素も数多く含まれていたことから、大好きな作家のエッセイ集という枠組みを超えた充実感を堪能することができました。
「エッセイは得意ではありません」と語る東野さんに無理は言えませんが、「最後」という言葉は撤回していただきたいと願わずにはいられません。

さて肝腎な内容ですが、本作は以下のような構成になっています。

  • 年譜…1958年から2006年末までの系譜や変遷の詳細が記されています。
  • 自作解説…1985年刊行の『放課後』から2006年12月に発行された『使命と魂のリミット』まで、計62作品の解説が、執筆意図や周辺エピソードを絡めながら語られて行きます。
  • 映画化作品に関するエッセイ…映画化作品にまつわる裏話や想い出の記、劇場用パンフレットに寄せられた「原作者:東野圭吾」のメッセージ等が収められています。
  • 思い出に関するエッセイ…『あの頃ぼくらはアホでした』が大学終了時までの「思い出」を語っていたのに対し、この章では、それ以降の「思い出」も綴られています。
  • 好きなものに関するエッセイ…大好きな漫画、大好きな映画、そして大好きな怪獣の話など、文字通り、作者の大好きなものがジャンル別に紹介されています。
  • スポーツに関するエッセイ…阪神タイガース・ブロンズコレクターと呼ばれたマリーン・オッティさん・作者の遠縁に当たる萩原智子さん(元水泳選手)への思いなどが披露されています。
  • 作家の日々…「作家:東野圭吾」の日常や交遊録などが記されています。藤原伊織さんや福井晴敏さんという、これまでのエッセイにはお名前のなかった方とのやり取りも紹介されています。
    勿論、「夢吉(東野さんの飼い猫)」も登場します。そもそもこのエッセイ集は、カバーに「夢吉」のボディを、各章のトップページには「夢吉」のイラストを散りばめるなど、「夢吉」で溢れ返る装丁になっています。
  • あとがき
年譜と自作解説は、旧公式ホームページに掲載されていたものが加筆・訂正された内容です。
旧公式ホームページの年譜は2000年で終了し、作品解説(著者の一言コメント)も、『ゲームの名は誘拐』以降は記事が更新されないままになっていました。

拝啓 東野圭吾さま
「もうエッセイは書かない」ということならば、公式ホームページを復活してはいただけないものでしょうか?
ファンはやっぱり、「こんなもの」を待っていると思うのですが……。><

2007年1月31日にup