十字屋敷のピエロ
作品DATA
十字屋敷のピエロ
  • 出版社 講談社ノベルス(ISBN:4061814141)
  • 発刊日 1989/01/05
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4061850458)
  • 文庫発刊日 1992/02/15
  • Detail 文庫の解説は高橋克彦さん
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
竹宮産業創始者の女婿である宗彦が何者かに殺害された。傍らには、愛人、三田理恵子の遺体も横たわっている。
理恵子が仕掛けた無理心中事件なのか?それとも―。

資産家一族に降り掛かる惨劇の様子が、ピエロ人形、「僕」の視点を交えながら語り継がれて行く本格長編推理小説。
ただの人形でしかない「僕」に対しては、犯罪者達も無防備だった。ラストには、「僕」の心に澱を残す、意外な結末が用意されている。

作品Review
デビュー当時の東野さんには、「ピエロが幸運をもたらす」というジンクスがあったようです。
『放課後』や『卒業』では、この道化人形が重要な役割を果たしました。『学生街の殺人』でも、ほんの片隅ではありますが、登場しています。
本作ではついに、ピエロが前面に押し出される事となりました。
本来ならば、特上の幸運が待ち受けてる筈―
だったですが、作中のピエロの方にいささかの問題がありました。この人形は、所有者を「必ず不幸にしてしまう」という、不思議な力を持っていたのです。幸運パワーが、不運パワーによって相殺されてしまいました。

『十字屋敷のピエロ』は、発売が日延べされています。本作の脱稿直後に、綾辻行人さんの『十角館の殺人』が出版されたからです。
しかも、作者が敢えて刊行を一年遅らせたにも関わらず、「新本格ブーム」に乗ったかのような誤解を受けてしまいました。
その結果(かどうかは不明ですが)、ピエロは、「僕は、僕が次に行くべき場所のことを考えねばならない。果たしてそこにはどんな悲劇が待ち受けているのか?」と言っていたにも関わらず、読者の前には、二度と姿を現そうとはしませんでした。

この作品は、主人公である竹宮水穂の主観に基づいた視点と、ピエロの、利害を排した客観的な視点で語り継がれて行きます。
初めてこの本を手にした時には、もう少し違う展開―、「奇妙な構造を持つ十字屋敷」「大企業の創業者一族」「登場人物表が必要なぐらいの複雑な人間関係」というキーワードにありがちな、おどろおどろしい展開を想像していたために、肩透かしを食らったような印象を持ってしまいました。
ところが、再読してみると、「この作品って、こんなに面白かったっけ?」と思う事しきり―。
本格ミステリは、犯人が分かったらそれでお仕舞い、という読者が多いでしょう。私もその一人ではあるのですが、本当の面白さは、読み返してみなければ伝わって来ないという事を実感させられました。
再読によって、作者の深慮遠謀に初めて気付き、心地よい「してやられた」感を味わう事ができました。
「意外な犯人」を知った上でこの物語を読み直すと、ありきたりな解釈しかしていなかった会話文にも、違った趣きが生まれます。ひどく冷淡に映った台詞が、実は、胸の痛みを堪えて発せられていたものだったのだろうなぁ、等々と―。

この作品の「真犯人」は、読み手の解釈によって違って来るかもしれません。
私は、ピエロの心に澱を残した対象を「真犯人」と考えましたが、他の方はどうだったでしょう。
いや、それにしても、○○○は怖い!

2005年10月23日に更新
『十字屋敷のピエロ』登場人物一覧
竹宮水穂(25歳) 竹宮産業創始者の孫
オーストラリアに遊学の後に帰国
竹宮幸一郎:故人・竹宮産業創始者 / 竹宮頼子:故人・竹宮幸一郎の長女・前社長 / 竹宮宗彦:竹宮産業社長・女婿・妻の頼子が死亡したために跡を継ぐ / 竹宮佳織:竹宮宗彦×頼子夫妻の一人娘・足が悪く、車椅子を使用している / 竹宮静香:竹宮幸一郎の妻 / 竹宮琴絵:竹宮幸一郎の次女・水穂の母親 / 近藤和花子:竹宮幸一郎の三女 / 近藤勝之:和花子の夫・竹宮産業取締役 / 永島正章:竹宮家(十字屋敷)に出入りしている美容師 / 三田理恵子:竹宮宗彦の秘書 / 青江仁一:竹宮家の援助を受けている大学院生・竹宮家(十字屋敷)で下宿生活 / 梅村鈴枝:竹宮家(十字屋敷)の家政婦 / 松崎良則:竹宮産業の取締役 / 悟浄真之介:人形師 / 山岸刑事:事件の担当捜査官 / 野上刑事:事件の担当捜査官 / ピエロ:前社長である頼子が生前に購入した人形・手に入れた人間を不幸にするというジンクスがある