パラレルワールド・ラブストーリー
作品DATA
パラレルワールド・ラブストーリー
  • 出版社 中央公論社(ISBN:4120024008)
  • 発刊日 1995/02/07
  • ノベルス C★NOVELS(ISBN:4125004595)
  • 発刊日 1997/02/25
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4062637251)
  • 文庫発刊日 1998/03/15
  • Detail 文庫の解説は新井素子さん
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • 好感度 ☆☆☆☆
作品Outline
敦賀崇史は、自分の「記憶」に空洞化した箇所が存在する事に気付いた。
それが勘違いや錯覚では処理できないものである事を悟った彼は、「真実」を探るための行動を起こす。だが、真相解明の鍵を握る人々は、或る者はいつの間にか、或る者は忽然と、崇史の前から姿を消してしまった。一体何が起こっているのか?

友情と恋の狭間で生まれた葛藤と、書き換えられた記憶の謎を、二つの時系列で追う異色ミステリ。

作品Review
法月綸太郎さんの『背信の交点』は、本作の冒頭シーンがヒントとなっているそうです。
並走する山手線と京浜東北線―。
その電車は、近づいたり、離れたりしながら、同じように走っていた。ほぼ同じ速度だから、再接近した時などは、まるで一緒の車両内にいるかのように、向こうの乗客のようすを見ることができた。無論、向こうからもこちらのようすが手に取るようにわかるはずだった。
だが、どれだけ近づいても、双方の空間に交流はない。(序章より引用)
色々な想像を掻き立てられる光景です。
法月さんはミステリのトリックを思い付きましたが、色々な場所で、様々な空想世界が出来上がっていた事でしょう。

この物語の主人公である敦賀崇史は、「向こうの乗客」である、髪が長くて目が大きい娘にほのかな恋心を抱きます。
ところが、交流を持てないままに時は過ぎ、運命の皮肉としか言いようのない再会を果たす事になりました。
無二の親友である三輪智彦に、恋人として紹介された津野真由子こそがその娘、「向こうの乗客」だったのです。
激しく揺れ動く主人公の心情―、
ところが次の章では、真由子が崇史の恋人として登場して来ます。
一体どうなっているのだと首を傾げながら読み進むと、続く場面ではまた、親友の恋人に惹かれて行く主人公の苦悩が、面々と書き綴られる状態に戻ります。
主人公は、書き換わった記憶と、時折垣間見える真実との交錯に混沌としますが、読者もまた、同様の混乱を余儀なくさせられる物語、それが『パラレルワールド・ラブストーリー』です。

この作品の主題は二つ存在します。一つは、親友の恋人を好きになった場合はどうすれば良いかという、実に古典的な命題。もう一つは、記憶に関わる脳のメカニズムを解明しようとする近未来的な概念。

友情が恋かで悩む時点で、既に答えは出ているのではないか?と私は思います。 この際の苦悩は冠婚葬祭と同類のもの、ある種の儀式なのだと考えています。シニカル過ぎますか?

もう一つの主題には、非常に興味深いものがありました。
本作は、刊行時に一度手にしたきり、昨年の秋まで、ただの一度も読み直す事をしていなかったのですが、 序盤を読んで絶句してしまいました。私の中で、このストーリーは、岡嶋二人さんの『クラインの壺』のものとして、記憶されていたからです。タイトルと作者名が、完全に入れ替わっていました。
『パラレルワールド・ラブストーリー』の話題に触れる機会もあったのに、間違いには気づけず仕舞いでした。
書き換えられた記憶を辿りながら、書き換えられた記憶の物語と読むという、二重のパラレルワールドで、記憶の不思議を探って行ったものでした。

三輪智彦の魅力に圧倒された物語でした。
古典的な命題を、古風な意思と最先端の科学で処理しようとした、優しい賢さに惹かれたのかもしれません。
自分は「恋愛」を優先させても、人には「友情」を大事にして欲しいと願う、呆れるほどにご都合主義な私です。

2005年9月12日に更新
『パラレルワールド・ラブストーリー』の登場人物一覧
敦賀崇史(20代後半) 総合コンピュータメーカー「バイテック社」に勤務。
現在は同社の研究・教育機関である「MAC技科専門学校」に在籍。
三輪智彦:敦賀崇史の親友・「MAC技科専門学校」に在籍 / 津野麻由子:「MAC技科専門学校」に在籍 / 桐山景子:「MAC技科専門学校」に在籍 / 須藤:「MAC技科専門学校」の教官 / 小山内:「MAC技科専門学校」の教官 / 篠崎伍郎:「MAC技科専門学校」に在籍・津野麻由子と同期入社 / 直井雅美:篠崎伍郎の恋人