むかし僕が死んだ家
作品DATA
むかし僕が死んだ家 出版社 双葉社(ISBN:4575231894)
発刊日 1994/05/25
文庫化 講談社文庫(ISBN:4062635070)
文庫発刊日 1997/05/15
Detail 文庫の解説は黒川博行さん。
お薦め度 ☆☆☆☆
お気に入り指数 ☆☆☆
作品Outline
「私」は7年前に別れた恋人の奇妙な申し出に付き合う事になった。
彼女、沙也加には、幼児期の記憶が完全に欠落している。その失われた記憶を取り戻すために、 「私」の協力が欲しいのだと言う。 初めは断ったが、彼女の腕時計の陰から垣間見えたリストカットの跡が、「私」を翻意させた。
唯一の手掛かりであった、長野県、松原湖近くの「灰色の家」で、「私」たちは幾つかの興味深い発見をした。小学生の男児と思える少年の日記・同じ時刻で停止している家中の時計・編み掛けの毛糸玉・出しっ放しの男性用スーツ・通電されていない冷蔵庫に残された缶詰―。

不自然に点在する過去の痕跡が一本の線に繋がった時、驚きの真実が明らかになる。比類なき世界観で読者を魅了する傑作ミステリ。

作品Review
本書を初めて読んだ時は、恐ろしさに震え上がってしまったものでした。
毒々しい言い回し、残酷な表現は存在しませんが、説明のつかない恐怖感に包まれて行く作品なのです。
原因は後段で明らかになります。この、説明のつかない恐怖感こそが、謎を解くための重要な鍵になっていました。
東野さんは、読者の五感にまで伏線を張ろうとしたのでしょうか?

恋人だった女性からの奇妙な依頼――彼女の失われた記憶を取り戻すことを目的に訪ねた松原湖近くの「灰色の家」で、主人公は、幾つもの不自然な光景を目にします。けれども、点在する不自然さを一本化できないために、推理の迷走を余儀なくされます。

名前を持たない主人公の一人称一視点で語り継がれて行く本作は、読者に対しても同質・同量のヒントが提示されているのですが、彼らに先んじて真相を看破することは困難でしょう。少なくとも私は、完全にしてやられました。
解説の黒川博行さんが「ぴんと来た」と述べた箇所は、私にもピカっと光るものがあったのですが、全体像を把握するまでには至りませんでした。

『むかし僕が死んだ家』では、「虐待」を副次的なテーマに据えています。
下田治美さんの『愛を乞うひと(角川書店/1993)』が、映画化されるなどして、「虐待」が世間の注目を集め始めている時期でもありました。
虐待する親達には、自身の幼児期に、両親の健全な愛情を受ける事ができなかった人が多いようです。それを証明するデータもありますが、私はこの分析に若干の疑問を持っています。
子どもの人権が確立されたのは近年のことであり、「虐待」という言葉が市民権を得る遥か昔から、この種の問題は蔓延していた筈です。その点に関しては、どんな解釈がなされているのでしょう?
『むかし僕が死んだ家』はとても魅力的な作品ですが、「虐待」に関する部分だけは、パワー不足と映りました。
丁寧な取材で独自の切り口・解釈を提示してくれる東野さんだからこその不満であり、本来ならば、横槍を入れるようなものではないのですが…。^^

本作には、全59作(2006/6/21現在)中の1ではないかと思われる、見事な要素が存在します。
『むかし僕が死んだ家』というタイトルが、それです。
色々な意味を含んでいる上に、ミスディレクションの役割まで果たすという「つわもの」です。
本作を未読の方は、タイトルにも注目しながらお楽しみください。

2006年6月21日に更新
『むかし僕が死んだ家』の登場人物一覧
(30歳前後) 理学部物理学科第七講座研究助手
中野沙也加(30歳前後) 専業主婦・夫は商社勤務
御厨佑介:松原湖畔にある灰色の家の元住人・日記を書き残している / おたいさん(倉橋民子):御厨家の家政婦 / 御厨啓一郎:松原湖畔にある灰色の家の元住人 / おかあさん(御厨藤子):御厨佑介の日記に登場する / あいつ(御厨雅和):御厨佑介の日記に登場する / チャーミー:御厨佑介の日記に登場する / 美晴:沙也加の長女 / 中野政嗣:御厨啓一郎の恩師 / 小倉荘八:神奈川県警の刑事 / 磯貝:実業家 / 工藤:「私」と中野沙也加の高校時代の同級生・クラス会の幹事