魔球
作品DATA
魔球
  • 出版社 講談社(ISBN:4062039036)
  • 発刊日 1988/07/20
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:406184931X)
  • 文庫発刊日 1991/06/15
  • Detail 第30回江戸川乱歩賞候補作
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆☆
作品Outline
開陽高校野球部の北岡明が、愛犬と共に刺殺された。彼は、その春の選抜高校野球では、キャプテンとしてチームを率いていた。聡明で、人望も厚い少年だった。 容疑者を特定できぬままに過ぎる時間が、北岡の所属していたチームに有形無形の不協和音を生み出して行く。
そんな中で、新たな事件が発生した。

プロ野球のスカウトからも熱い期待を寄せられる開陽高校野球部のエース、須田武志と、彼の家族を核に物語りは展開して行く。亡くなった北岡は、武志が甲子園で投げた最後の一球は「魔球」であったと述べている。第2の事件現場でも、死体のそばには「魔球」と読める文字が残されていた。
真相解明の鍵を握るのは「魔球」なのか!?

『放課後』の前年に書かれた、第30回江戸川乱歩賞候補作。

作品Review
乱歩賞のために用意されていた三作品(『魔球』・『放課後』・『卒業』)の中では、本作が一番好きです。
なぜこれほどまでの傑作が受賞を逃したのだろうと訝しく思っていたのですが、長年に渡って江戸川乱歩賞の予選委員を務めて来られた関口苑生さんの著書を読んで、合点が行きました。
その本、「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」には、以下のようなことが述べられています。
惜しかったのは(受賞の)前年の『魔球』で、高校野球をテーマにした上質の青春ミステリーであったのだが、最大の謎である「魔球」の正体をめぐって議論が百出、受賞を逃した経緯があった。
のちに改稿されてこの作品は出版されているが、その魔球の部分は当然のことながらうまく訂正されてある。
せっかくだから、ここで改稿前の正体を書いておくと―。(以下省略)
(P.263の6行目〜10行目より転載)
興味がある方は、「江戸川乱歩賞と日本のミステリー」で、その省略部分の内容をご確認ください。

『魔球』は、昭和39年の高校野球界を描いた作品です。
作者が小学校に入学した年の話なので、執筆には相応の苦労があったと思われますが、この時代にしか成立しない作品ではありました。

誰もが「天才」という表現を用いることに躊躇いを覚えない高校球児、須田武志。その彼が敗戦投手になるところから、この物語は始まります。
選抜高校野球の一回戦、武志の右腕一本に頼り切って甲子園の土を踏んだこのチームには、冒頭から、読み手の気持ちを重くする、不穏で危うげな雰囲気が漂っていました。「天才投手」須田には、「夏の甲子園」はないかもしれないと予感させるものがありました。
そしてその想像は、意外な形で的中してしまいます。
捕手であり、主将でもあった北岡明が、何者かに殺害されてしまうのです。須田のストレートを捕球できるのも、1人の天才と8人の凡人とで構成されていたナインを束ねることができるのも、北岡をおいて他には存在しませんでした。

呆気ないほどに容易く瓦解してしまった開陽高校野球部に、天才の孤独を見た気がしました。 チームメイト達の身勝手な物言いには、歯噛みしたいような気分にさせられました。
でも、彼らは、このチームに限らず、どこの世界でも、どんな年齢層にも、圧倒的に多く見られる価値観の持ち主だっただけのこと―。

この作品を読み終えた後に最も強く感じたのは、被害者と加害者が、もう少し凡庸な人間であれば良かったのに、ということでした。
真っ直ぐに強く生きることを、全面否定したくなるような作品でもありました。

ネタばらしになってしまうため、本作の持つを素晴らしさを、真正面から語れないことをとても残念に思います。
代表作にも負けずとも劣らない、とまで言ってしまうと嘘になりますが、東野圭吾さんの底力をまざまざと見せ付けられた作品ではありますので、未読の方は、是非ご一読を!

2005年11月9日に更新
『魔球』の登場人物一覧
須田武志(17〜18歳) 開陽高校3年生・硬式野球部の投手
須田勇樹:須田武志の弟・開陽高校2年生 / 須田正樹:須田武志の父親・故人 / 須田志摩子:須田武志の母親 / 須田明代:須田正樹の妹 / 北岡明:開陽高校3年生・野球部の捕手でキャプテン・夜間の外出時に何者かに殺害される / 北岡久夫:北岡明の父親 / 北岡里子:北岡明の母親 / 森川教諭:開陽高校の物理教師・野球部の監督 / 手塚麻衣子:開陽高校の国語教師 / 久保寺教諭:開陽高校の教師・須田勇樹と北岡明の担任 / 佐野教諭:開陽高校の歴史教師・須田勇樹の担任 / 飯塚校長:開陽高校の学校長・渾名はヒゲツル / 田島恭平:開陽高校3年生・野球部の控え投手 / 佐藤:開陽高校3年生・野球部の三塁手 / 宮本:開陽高校3年生・野球部の一塁手 / 直井:開陽高校3年生・野球部の中堅手 / 沢本:開陽高校3年生・野球部の控え選手(外野と捕手) / 松野:開陽高校3年生 / 谷村:開陽高校の卒業生・野球部の元キャプテン / 市川:開陽高校の卒業生・野球部の元エース / 近藤:開陽高校2年生 / オンセン:開陽高校2年生・家業が風呂屋 / 笹井:開陽高校2年生・バスケット部員 / 臼井一郎:東西電機勤務・資材部資材一課の課長 / 中条健一:東西電機社長 / 中条紀美子:中条健一の妻 / 芦原誠一:東西電機の元従業員・東西電機野球部に在籍 / 元木:東西電機勤務・人事部所属 / 西脇部長:東西電機勤務・安全調査部 / 寮監:東西電機野球部宿舎の寮監 / 八木:少年野球チームの監督 / ヤスオ:少年野球チームのメンバー / ジロウ:須田武志が所属していた頃の少年野球チームのメンバー / マモル:須田武志が所属していた頃の少年野球チームのメンバー / 津山:亜細亜学園の4番バッター / 山瀬:鉄工所の経営者・須田志摩子に金を貸している / 山下:元プロ野球選手・プロ野球のスカウト / 竹中:須田家への弔問客 / 上原刑事:千葉県警捜査一課勤務・東西電機事件の担当捜査官 / 篠田刑事:千葉県警捜査一課勤務・東西電機事件の担当捜査官 / 桑名刑事:千葉県警捜査一課勤務・東西電機事件の担当捜査官 / 天野巡査:島津駅派出所勤務 / 高間刑事:千葉県警捜査一課勤務・北岡明殺害事件の担当捜査官 / 小野刑事:千葉県警捜査一課勤務・北岡明殺害事件の担当捜査官 / 本橋班長:千葉県警捜査一課勤務・北岡明殺害事件の担当捜査官