黒笑小説
作品DATA
黒笑小説 出版社 集英社(ISBN:408774754)
発刊日 2005/04/26
文庫化 未定
文庫発刊日 未定
Detail内容:もうひとつの助走/ 巨乳妄想症候群/ インポグラ/ みえすぎ/ モテモテ・スプレー/ 線香花火/ 過去の人/ シンデレラ白夜行/ ストーカー入門/ 臨界家族/ 笑わない男/ 奇跡の一枚/ 選考会
お薦め度 ☆☆☆☆
お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
黒い諧謔が散りばめられた短編集。
文壇にまつわる悲喜劇を中心に、全ての女性が巨乳の持ち主と映る男・ベストショットを手に入れてしまった女子大生・玩具メーカーの戦略に嵌った父親達の悪戦苦闘ぶりが描かれる。
作品Review
黒笑小説の東野さんの文句が辛らつです。
「偉そうな顔をしていても、作家だって俗物根性丸出し!」と切り出し、「俗物作家東野がヤケクソで描く、文壇事情など13の黒い笑い」と括っています。
カバーデザインも負けてはいません。文学賞の選考を待つ作家と編集者という想定で、東野さん自身が、微妙な立場に置かれた候補作家を演じています(右画像)。
帯もカバーも東野さん自身のプロデュース、とのことですが、それはそうでしょうとも。編集者やプランナーが、「俗物根性丸出し!」だの「俗物作家東野」だのを口にできる筈もなく―。

前二作(『怪笑小説』・『毒笑小説』)は完全な短編集でしたが、『黒笑小説』には連作と呼んだ方が良いと思われる作品が幾つか含まれています。
「もうひとつの助走」・「選考会」ではベテラン作家の寒川心五郎、「線香花火」と「過去の人」では文学新人賞の受賞者である熱海圭介を中心に話が展開して行きます。
また、「過去の人」と「選考会」には、『虚無僧探偵ゾフィー』というタイトルのミステリが登場しますが、本書のカバーからも、単行本としての体裁を整えたその姿が見て取れます。帯の文字までは読めないものの、『幻夜』よりも厚く扱われているところには「黒い笑い」を禁じ得ません。

  • もうひとつの助走
    文学賞の選考を待つ作家、寒川心五郎と、彼の担当編集者達の建前と本音が軽妙な筆致で書き綴られて行く。
    東野さんの直木賞受賞前と受章後では、全く異質な読後感が生まれる作品です。
    初出は1999年ですから、この時点での東野さんは、一回目の落選を経験していただけですが、主人公の寒川心五郎は五回の落選経験者。『黒笑小説』を上梓した時(2005/04)の東野さんの状況に合致します。
    もしかしたら、単行本化の際に落選回数を合わせたのかもしれませんが、刊行直後に手にした読者には、複雑な思いを余儀なくされる作品となりました。
    落ちるたんびにやけ酒飲んで、
    みんなで、選考委員の悪口言って、
    普通の人はできない面白いゲームやったなっていう―、
    (この面白いゲームを)出来ないのが、寂しくなるかなと思ったけど、
    ……、やっぱり、今日は、勝てて良かった!
    という受賞インタビューの言葉を、懐かしく思い返していました。
  • 巨乳妄想症候群
    全ての女性が巨乳の持ち主と映る男の話。
    主人公の中では苦悩・歓喜・当惑が錯綜しますが、女の私には理解の及ばない世界の出来事でしかありませんでした。街行く男性が全てジャニーズ系に見える状態に置き換えればいいのか、とも思いましたが、そんな状態なら10分程度でも、ぐったり来てしまいそうですし……。
  • インポグラ
    インポテンツ誘発剤であるインポグラが開発された。意外にも、驚異的な売れ行きを示すが―。
    人間ですから、性欲ぐらいは理性でコントロールしていただきたいものです。でも、主人公の妻が提案した、性犯罪者への活用は良いアイデアだと思いました。
  • みえすぎ
    粒子単位の成分が見えてしまう男の話。移り香までもが物質として映るため、秘められた男女関係も、彼にの目には一目瞭然な仲となってしまう。
    利点よりも不都合なことが圧倒的に多い能力ですが、必要な時にだけに利用できる「みえすぎ点眼薬」が開発されれば、オファーが殺到するでしょう。「俺」のお父さん、頑張れ!
  • モテモテ・スプレー
    惚れ薬と同等の効能を持つ液体を手に入れたモテない男が、憧れの女性をくどき落とすために懸命になるが―。
    作中に登場するMHC――、ネタだと思っていたのですが、本当に存在するようですね。驚きました。カワシマさんは本当にお気の毒だと思いますが、仏門にでも入って、煩悩を滅却するしかないのでしょう。
  • 線香花火
    小説灸英新人賞を受賞した熱海圭介は、すっかり一線級の作家気取り。職場の同僚や親族に大言壮語を吐いたばかりか、編集者にも「受賞第一作」に関する要望を提示して呆れさせる。出版社側には、次回作を書かせる心積もりなどないのだが―。
    福井晴敏さんが、『亡国のイージス』の主人公、如月行のネーミングについて、以下のようなことを話しておられました。
    文学賞の新人賞って、エントリーフィーみたいなもんでですね、それを取ったから次があるというものではなくて、それを取ったら戦線に加われるというだけのことなんで、これはもう、後に何も残さずに行ってしまおう!という所で「行」。
    行くって名前を付けて「行」という、聞いてしまえば意外とつまんないな、って話ですけれども。
    エントリーフィーみたいなものだということを認識していれば、熱海圭介ももう少し賢く立ち回ったのでしょうが……。
  • 過去の人
    『線香花火』の主人公、熱海圭介が、ここでも哀れな勘違いっぷりを発揮する。『もうひとつの助走』で、活躍した寒川先生が再登場。
    一年間に輩出される新人賞受賞者の数が400人というのは、本当のことなのでしょうか?その数の凄さに驚きました。
    熱海先生に、再生の目はあるのでしょうか?
  • シンデレラ白夜行
    継母や義姉達に苛められ続けるシンデレラだが―。
    「シンデレラにまつわる衝撃の事実が今明かされる!」
    シンデレラストーリーを実現させるためにはそれなりの才覚が必要だった、ということを思い知らされました。
  • ストーカー入門
    恋人から、一方的に別離を言い渡された男が、「元」恋人の指南でストーカーに勤しむ物語。
    面白い物語ですが、正真正銘ののストーカー被害に悩む女性が読んだら、柳眉を逆立てそうです。
  • 臨界家族
    子供向けのキャラクター商品に翻弄される一家のドタバタ悲喜劇。
    キャラクター商品を販売している開発部員の名前を見て、「あ、そういうことだったんだ」と膝を打ちました。
    作中に登場する女児の人気キャラクター「スーパープリンセス」は、『赤い指』の被害女児が気に入っていたキャラクターでもあります。
  • 笑わない男
    売れないお笑いコンビが、謹厳実直で鉄面皮なホテルマンから「笑い」と取ろうと躍起になるが……。
    慇懃ではあっても無礼ではないホテルマンの、プロの芸を堪能させてもらいました。
    収録作の中では、一番気に入っている作品です。
  • 奇跡の一枚
    容姿に恵まれない女子大生が、奇跡の一枚と呼ぶに相応しい写真を手に入れた。別人のような美しさで写っている。
    とんでもなく映りの良い写真を巡っての珍騒動が描かれた作品ですが、その背景にあったのは、強い愛情物語でした。醜男のお父さんだって、こんなにも深く愛されていた(いる?)わけですから、主人公の今後にも期待が持てそうです。
  • 選考会
    本作ではお馴染みの存在となった寒川先生がここでも登場する。万年(文学賞)候補者だった彼の元に、選考委員の話が舞い込んで来た。
    「過去の人」にもチョイ役で登場する寒川先生は、『黒笑小説』の キーパーソン的存在です。
    それだけに、この結末には何とも言えない侘しさを覚えました。
2006年8月26日に更新
『黒笑小説』の登場人物一覧
■ もうひとつの助走
寒川心五郎 作家
文学賞にノミネートされている
神田:灸英社勤務の編集者 / 鶴橋:灸英社勤務の編集者 / 広岡:金潮書店の編集者 / 駒井:扁桃社の編集者 / 望月:作家・文学賞にノミネートされている / 乃木坂:作家・文学賞にノミネートされている / 花本:作家・文学賞の選考委員 / 鞠野:作家・文学賞の選考委員 / 狭間:作家・文学賞の選考委員 / 夏井:作家・文学賞の選考委員 / 平泉:作家・文学賞の選考委員
■ 巨乳妄想症候群
イラストレーター
ヤマダ:管理人 / タムラ:私の友人・精神科医 / ガールフレンド:私のために手料理を作ってくれる巨乳(?)の持ち主
■ インポグラ
おれ 広告代理店勤務・プランナー
立田:大学勤務・薬学部の助教授 / 玉岡:広告代理店勤務・「おれ」の同僚 / 社長夫人:得意先の社長夫人 / :「おれ」の配偶者 / サキコ:妻の友人 / モモコ:キャバクラ嬢・「おれ」の愛人
■ みえすぎ
会社員
親父:「俺」の父親・眼科医 / ユミ:「俺」の勤務先の受付嬢・俺の恋人 / スズキキミコ:「俺」の同僚・部内随一の美人 / 課長:「俺」の上司 / 常務:「俺」の上司・スタイリストとして有名
■ モテモテ・スプレー
カワシマタカシ 会社員
アユミ:カワシマタカシの職場の同僚・カワシマタカシが惹かれている / 博士:人類愛正常化研究所でモテモテ・スプレーを開発している
■ 線香花火
熱海圭介 事務機器メーカー勤務の営業マン
作家志望
小堺肇:『小説灸英』の編集者 / 青田:『小説灸英』の編集長 / 藤原奈々子:小説家志望 / 赤尾膳太郎:作家 / 光本:事務機器メーカー勤務・熱海の同僚 / 松原美代子:事務機器メーカー勤務・熱海の同僚 / 伊勢:事務機器メーカー勤務・熱海の同僚 / 丸金大吉:挿絵画家 / 景山寅次:挿絵画家 / 里美:熱海の従妹
■ 過去の人
熱海圭介 作家
唐傘ザンゲ:『虚無僧探偵ゾフィー』で灸英新人賞を受賞する / 小堺肇:『小説灸英』の編集者 / 青田:『小説灸英』の編集長 / 神田:灸英社出版部の編集長 / 寒川心五郎:作家 / 西陣:作家 / 羽生:作家 / 藤原奈々子:小説家志望
■ シンデレラ白夜行
シンデレラ 没落貴族の娘
ミモネル:シンデレラの父親 / ダンダラ:シンデレラの継母・高利で金を貸し、一財産築く / 二人の姉:シンデレラの義姉・ダンダラの連れ子・大層太っている / 召使:シンデレラの家で雇われている・シンデレラに同情している / ルメロ:高級洋品店の清掃婦 / ペトロ:靴職人・シンデレラの亡き母の親戚 / 王子:シンデレラ一家が住む国の王子・独身生活をエンジョイしたいと考えている
■ ストーカー入門
設計事務所勤務
華子:専門学校生・フリーライター志望 / ストーカー1:若い男・24〜5歳の切れ長な目をした美人のストーカー / ストーカー2:実家に戻っていた女のストーカー
■ 臨界家族
川島哲也 主人公の職業
智子:川島哲也の妻 / 優美:川島哲也の娘 / 柳原まどか:優美の友達 / 柳原夫妻:優美の両親・玩具の購入に無抵抗で、玩具に対する知識量も豊富
■ 笑わない男
拓也 お笑い芸人
拓也は芸名で、本名は義昭
慎吾:拓也の相方・慎吾は芸名で本名は安雄 / 箱井:拓也と慎吾のマネージャー / ボーイ:高級ホテルの客室係
■ 奇跡の一枚
遥香 大学生
里佳:大学生・遥香のゼミ仲間 / 彩花:大学生・遥香のゼミ仲間 / 義孝:大学院生・遥香の兄 / 孝三:遥香の父親 / 洋子:遥香の母親・遥香が乳児の時に他界 / 吉岡トオル:大学生・遥香のメール友達
■ 選考会
寒川心五郎 作家
灸英社推理小説新人賞の選考委員
神田:灸英社出版部の編集長 / 友引三郎:作家・灸英社推理小説新人賞の選考委員 / 轟木花子:作家・灸英社推理小説新人賞の選考委員