片想い
作品DATA
片想い
  • 出版社 文芸春秋社(ISBN:4163198806)
  • 発刊日 2001/03/30
  • 文庫化 文春文庫(ISBN:4167110091)
  • 文庫発刊日 2004/08/10
  • Detail 第125回直木賞候補作 / 文庫の解説は吉野仁さん
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆☆
作品Outline
「あいつ、女子マネって感じじゃなかったよな。ルールとかゲームプランのこと、俺たちよりもよく知ってた」と―、そんな懐かしい話題で盛り上がっていた当の本人、日浦美月が、そこに立っていた。西脇哲朗にとっては、10年ぶりの再会という事になる。
西脇の大学時代は、生活の殆ど全てをアメリカンフットボールに捧げる日々だった。ポジションはクォーターバック。美月は有能なマネージャーで、監督や部員からの信頼も厚かった。
美月はいつも、西脇を「QB」と呼んでいた。再会後の第一声も「久しぶりだな、QB」であった。だがその声は、哲朗の耳に馴染んだものではなかった。
それは、男の声色をしていた。

ジェンダーフリーと友情をテーマにした、長編推理小説。

作品Review
『片想い』は、縦軸にジェンダーフリーが、横軸には、夫婦間の愛憎と学生時代から続く友情が描かれています。幾つもの要素が複雑に絡み合う展開ですが、最終章ではその交点が舞台になりました。東野さんらしいラスト、という事になるのでしょう。感動の中にも哀切が残ります。

この本を初めて手にした頃、2001年当時の私は、性同一性障害に関する知識が皆無、といっても良い状態でした。
女性競艇選手が、男性への登録変更が認められたのは、本書の刊行から1年以上が経過した後の出来事です。
この競艇選手、安藤大将さんが社会に与えた影響は多大だったのかもしれません。2004年7月16日には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」も施行されました。

『片想い』が刊行された当時と現在の社会環境には、かなりな隔たりがあります。本書の中には、今となっては意味をなさなくなった設定も存在します。そうした事もあって、この作品に対する読後感も大きく変質して来ました。
作中人物に対する疑問点は少なくないものの、その是非を迂闊に語るのは慎むべきだ、という思いが強くなりました。
内実は計り知れないままですが、問題の大きさだけは把握できるようになったという事でしょうか?

変わったと言えば―、
哲朗の妻、理沙子に対する印象も随分と違って来ました。
彼女に対しては、かなりな不快感を持っていたのですが、今回読み直してみて、もしかしたら理沙子は色々なものの本質を見通す能力が高過ぎるだけなのでは?と思うようになりました。彼女もまた、永遠の片想いに身を置く一人なのかもしれません。

『片想い』は、「夜空ノムコウ」にインスパイアされた作品だそうです。
ジェンダーフリーという大きなテーマを抱えているために、若かった頃の自分達を懐かしみ、その時代に培ったものを喪うまいともがく側面が見え辛くなっていますが、言われてみれば確かに、文中のあちらこちらからこの歌が聞こえて来ます。
『続・片想い』を、今度はエリック・クラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」をイメージして書いて欲しいのですが、これも永遠の片想いで終わるのは間違いのないところでしょう。

2005年8月28日に更新
『片想い』の登場人物一覧
西脇哲朗 スポーツライター
帝都大アメフト部元部員
ポジションはクォーターバック
西脇理沙子:哲朗の妻・カメラマン・帝都大アメフト部の元マネージャー / 日浦美月:帝都大アメフト部の元マネージャー / 中尾功輔:大手食料品メーカーに役員待遇・帝都大アメフト部の元ランニングバック / 早田幸弘:新聞記者・帝都大アメフト部の元タイトエンド / 須崎:損害保険会社に勤務・帝都大アメフト部の元エースストライカー / 安西:帝都大アメフト部の元部員 / 松崎:帝都大アメフト部の元部員 / 佐伯香里:バー『猫目』の従業員 / 野末真希子:バー『猫目』のママ / 向井宏美:バー『猫目』の従業員 / 戸倉明雄:バー『猫目』の常連客・廃品置き場で死体となって発見される / 戸倉佳枝:戸倉明雄の母親 / 戸倉泰子:戸倉明雄の妻 / 戸倉将太:戸倉明雄の息子 / 望月:警視庁の刑事 / 有坂文雄:実業団陸上部のコーチ / 中原:実業団陸上部のチームドクター・大学の助教授 / 末永睦美:半陰陽の陸上選手 / 荒巻教諭:末永睦美が所属する陸上部の顧問 / 田倉昌子:ビリヤードの選手 / 広川幸夫:銀行員・日浦美月の夫 / 広川悠里:日浦美月の息子 / 日浦元教師:美月の父親 / 相川冬紀:バー『BLOO』の経営者 / 嵯峨正道:劇団『金童』の主催者・長距離トラックの運転手 / 高城律子:中尾功輔の元妻 / 立石卓:佐伯香里の知人