怪笑小説
作品DATA
怪笑小説
  • 出版社 集英社(ISBN:4087741680)
  • 発刊日 1995/10/30
  • 文庫化 集英社文庫(ISBN:4087488462)
  • 文庫発刊日 1998/08/25
  • Detail 内容: 鬱積電車/ おっかけバアさん/ 一徹おやじ/ 逆転同窓会/ 超たぬき理論/ 無人島大相撲中継/ しかばね台分譲住宅/ あるジーサンに線香を/ 動物家族
    著者のあとがきが掲載されている
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
老若男女の怪しい喜怒哀楽をシニカルな筆致で描く傑作短編集。

巻末には筆者の「あとがき」が添えられ、その作品を書くに至った背景や、執筆中の心情が紹介されている。

作品Review
  • 鬱積電車
    混み合った電車に乗り合わせた人々の胸の内が語られている。
    膨れ上がる一方の怒りや不快感を、大方の乗客は、取り繕った表情で覆い隠していたのだが―。
    その後を騒動を夢想して、心弾ませてしまいました。何て、いやな性格なのでしょう。
    「くたびれていないスーツを着込んだ男性サラリーマン」「集団ではない中高生(男女は問わない)」「バリキャリ風OL」が、私的ランキングのベスト3。何のベスト3?満員電車の中における、席を譲ってくれ易い人のランキングです。よんどころない事情で、席を譲られる機会が多い時期があり、その折の体験から導き出しました。ワースト1は勿論○○○○。
  • おっかけバアさん
    倹約家として知られるバアさんが、人気役者の公演チケットをタダで入手した。その一枚の紙切れが、彼女のその後の運命を大きく変えてしまうことになる。
    バブル期には、私の周囲にも、年間に一千万円以上の「おっかけ」投資をする人種が存在しました。その歌手の熱心なファンには有閑マダムが多かったため、安物を身にまとう事ができない、という話でした。
    面妖な価値観が漂う世界に、ただただ呆然とするばかりでしたが、おっかけバアさんを読んでいると、こういう幸せもあるのかもしれない、という気持ちにさせられました。
  • 一徹おやじ
    『巨人の星』の星一徹もどきが、我が子を飛雄馬級に育てようと、並外れた情熱を注ぐ物語。
    さり気なく盛り込まれている「私」の活躍が凄い!立派なものです。それを思えば、一徹おやじの子育て法も、満更悪いものではなかった、という事になるのでしょうか?
  • 逆転同窓会
    退職者を中心にした教師達の懇親会に、かつての教え子達を参加させる事になった。教師達には、自分らの薀蓄を披露する目論見があったのだが、無残に打ち砕かれる。
    北杜夫さんも、本作の「あとがき」に類似した話題に触れていたことがあります。「かつていた会社」は特別で、東野さんを不快にさせた人々が、標準的な価値観の持ち主、ということなのかもしれません。
    以前、同窓会の記念行事で、某有名作家に講演を打診したところが、高額の謝礼(150万円だったかな?)を要求され、準備委員会のメンバーが激怒するという騒ぎがありました。その時は閉口しましたが、この「あとがき」を読みながら、「あれは、積もりに積もった不快感に対する意趣返しだったのかもしれない」と思いました。
    何れにせよ、同窓という存在に過剰な期待を寄せるのは宜しくないようで―。
  • 超たぬき理論
    狸には超能力があると信じた子供が、その信念を変えないままに大人になった。
    「日曜ウルトラスペシャル」ではUFO研究家を相手に、弁舌爽やかな自説を展開する。だが、空飛ぶタヌキを撮影するためにセットしておいたビデオに記録されていたものは―。
    京極夏彦さんが「大好き」と語る作品。ラストの一行が秀逸です。
    詭弁を弄する人物への痛烈な批判が込められた内容になっていますが、皮肉の極意を伝授されたような満足感を覚えました。
  • 無人島大相撲中継
    無人島に漂着した豪華客船の乗員一行は、徳俵庄ノ介の「再現」相撲中継を楽しみにするようになる。やがて彼らは、勝敗の結果に、食料を賭け始めた。勘の悪い主人公達は負け続け、飢え死にの危険性が出て来た。
    徳俵庄ノ介の、実直人柄が、可笑しくて悲しい物語。「ラジオ」が本当に壊れてしまう前に、救助隊が到着することを祈るばかりです。
  • しかばね台分譲住宅
    地価の下落を恐れた団地の住人が、町内の路上で発見された死体を、別のニュータウンに移動させた。
    ところが、次の日には舞い戻って来てしまった死体―。
    バブル期に住宅を購入した人には、「笑い」の要素を見つけ難い物語となるのかもしれません。大幅な値引きが断行された分譲住宅を巡る騒動は、今でも時々耳にします。
    もしかしたら、行方不明者の何人かは、第2第3のしかばね台分譲住宅で土に還っているのかも…。って、さすがにそれはないでしょうね。
  • あるジーサンに線香を
    あるジーサンが「若返りの実験」に協力する事になった。どんどん若さを取り戻すジーサン。暗い青春時代を補完するような、幸福なひとときが訪れるが、無論、それには限界が存在した。
    『アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス著)』の形態を用いていますが、『変身』に似た趣もある秀作。
    「わし」が、「私」「僕」と変化し、再び「わし」に戻るまでの経過が、主人公の日記を通して、細やかに書き綴られて行きます。
    結果的にはこの上もなく残酷な実験となってしまいますが、私がこの研究の協力者になることを依頼されたら、快諾してしまうかもしれません。勿論、恋だけはしないように心掛けるつもりですが…。
  • 動物家族
    いつの頃からか、肇には、周りの殆どの人間が、人間以外の動物に見えるようになっていた。父親は狸で母親はスピッツ、兄がハイエナで姉は猫、そして祖母は狐である。
    とても恐ろしい世界観を持った作品です。
    狂気が醸成されるまでの様子を疑似体験しているかのようでした。
    この作品のどこから「笑い」を感じ取れば良いのだろうと悩んでしまい、「笑い」のセンスが欠落した自分の傷ましさを嘲笑っておきました。
2005年11月22日に更新
『怪笑小説』の登場人物一覧
■ 鬱積電車
河原宏 研究所勤務
乗車するなり居眠りを始める
岡本義雄:初老の男性 / 和田弘美:若いOL / 高須一夫:シルバーシートに座っている中年サラリーマン / 田所ウメ:老女 / 前田典男:シルバーシートに座っている学生 / 中倉亜希美:ミニスカートを履いているOL / 佐藤敏之:経済新聞を読む中年男性 / 山本達三:失業中の男 / 葛西幸子:30半ばのOL・未婚 / 西田清美:妊婦 / 阿部菊恵:太った中年女性 / 藤本就子:OL / 市原啓介:会社員 / 福島洋子・保:全身をペアルックでまとめた母親と男児 / 浜村精一:会議のための書類を点検しているサラリーマン
■ おっかけバアさん
勝田シゲ子 年金暮らしの寡婦・大阪出身
杉原健太郎の大ファン
杉原健太郎:中・高年の女性に人気のある役者 / ファンクラブの女性:勝田シゲ子を杉原健太郎に勧誘 / 大家:気の弱い中年男性・自室で倒れていた勝田シゲ子を発見し医者を手配 / 医師:栄養失調で倒れた勝田シゲ子を診察 / マネージャー兼運転手:杉原健太郎を乗せて運転中に勝田シゲ子を撥ねる
■ 一徹おやじ
望美 弟誕生まで野球教育を施される
:息子をプロ野球の選手にしたいと考えている / :夫の熱情をCOOLに捉えているが、たまには憤慨して意見する / 勇馬:望美の弟・父親に徹底した野球教育を施される / 番野:武骨館高校で勇馬とバッテリーを組む
■ 逆転同窓会
古沢牧子 巣春高校の元国語教師
15期生担任会の幹事
大宮一雄:巣春高校の元国語教師 / 杉本:巣春高校の元理科教師 / 新美:巣春高校の元社会科教師・元生徒指導部長 / 内藤:巣春高校の元数学教師 / 時田:巣春高校の元英語教師 / 柏崎:巣春高校の15期生・花丸商事に勤務・課長 / 小山:巣春高校の15期生・自動車メーカーに勤務 / 松永:巣春高校の15期生・県警本部に勤務・警部 / 川島(旧姓光本):巣春高校の15期生・通訳 / 本原(旧姓幸田):巣春高校の15期生・ソフト開発メーカーに勤務 / 神田安則:巣春高校の15期生・東巣春高校の生物教師
■ 超たぬき理論
空山一平 タヌキの研究者
「UFOタヌキ説」を唱える
伯父:空山一平の母方の伯父・井上酒店を経営 / 司会者:「日曜ウルトラスペシャル」の進行役 / 大矢真:UFOの研究者・「UFO宇宙人の乗り物説」を唱える
■ 無人島大相撲中継
会社社長
恵里子:俺の愛人 / 徳俵庄ノ介:相撲博士・元アナウンサー / 谷町一朗:大手旅行代理店の経営者 / 機関士:豪華客船の乗組員
■ しかばね台分譲住宅
事務機メーカーに勤務
女房:主人公の妻 / エリ:主人公の娘 / 山下:主人公宅の向かいの住人 / 山下夫人:山下の妻・死体の第一発見者 / 遠藤:主人公宅の燐家の住人 / 遠藤夫人:遠藤の妻
■ あるジーサンに線香を
わし 身寄りのない独居老人
新島先生:医師 / 井上千春:書店員 / 花田広江:看護師
■ 動物家族
中学生・家族が動物に見えてしまう
スピッツ:肇の母親 / タヌキ:肇の父親 / ハイエナ:肇の兄・大学生 / :肇の姉・高校生 / キツネ:肇の祖母 / オオサンショウウオ:肇の同級生・不良グループのボス / カメレオン:肇の同級生・オオサンショウウオの取り巻き / ヤギ:肇の担任教師 / :肇の父の愛人 / ハシモト君:肇の小学校時代の親友 / ブルドック:肇の中学の生徒指導係