名探偵の呪縛
作品DATA
名探偵の呪縛
  • 出版社 -----
  • 発刊日 -----
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4062633493)
  • 文庫発刊日 1996/10/15
  • Detail 講談社文庫25周年企画による文庫書き下ろし作品
  • お薦め度 ☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆
作品Outline
仕事場の近くにある中央図書館を訪ねた「私」は、さして広くもない館内で迷子になった挙句に、異次元の世界へと送り込まれてしまう。
出迎えてくれた14・5歳の少女は自らを日野みどりと名乗り、「私」を「探偵の天下一さん」と呼んだ。否定しようと思ったが、「私」の中の何かがそれを拒んでいた。頭の隅にいるもう一人の「私」が、この世界を受け入れねばならないと囁きかけてくるのだ。
「探偵の天下一」となった「私」は、外国の古き良き時代を彷彿とさせる墓礼路(ぼれろ)市で、盗掘に関する調査を依頼された。ところが、手掛かりを握っていると思われる人々が次々に殺害されていく。みどりは一連の事件を「呪いによるもの」と言うが、それは一体、何を意味するのか?

『名探偵の掟』の主人公、天下一大五郎が再登場する長編ミステリ。

作品Review
著者の一言コメントには「この作品を読んで、『東野は本格から離れたのか』と思った人も多かったようだが、そんなことはない。ただ、書けなくなってきていることは事実だ」と記されています。
東野さんは、『浪花少年探偵団2(講談社/1993)』で「作者はこの世界に留まっていられなくなった」と宣言し、その3年後には、本格物をシニカルな筆致で捉えた連作短編集、『名探偵の掟(講談社/1996)』を発表しています。
『同級生(祥伝社/1993)』では、「トリックに凝ろうとは思わなかった。目指すのはリアリティだった」と語り、更には「この作品(同級生)は、じつは自分にとって最大のターニングポイントだと思っている」と述べていますから、この時点で、本格物と一線を画する決意、みたいなものが固まっていたのかもしれません。

『名探偵の呪縛』は、連作短編集の要素を併せ持った長編ミステリです。
前作とは異なる雰囲気を持った天下一大五郎が、「資産家の屋敷」「小説家の屋敷」「市長の別荘」で起る難事件を、古今の名探偵にも勝るとも劣らぬ勢いで、次々に解決して行きます。『名探偵の掟』のとぼけた雰囲気を想像しながら手に取った人なら、初めはちょっと面食らってしまうでしょう。私はそうでした。
その理由、シリーズ物でありながらも異なる世界観を持つ理由は、終章で明かされます。東野圭吾ファンには、ドキリとさせられる内容になっています。
そう―、ですから、これが初東野という方には不向きな本、という事になるのかもしれません。

本書には、以下のような言葉が記されています。

ずっと以前、私は自分の好きな世界を作ろうとしていた。それが幸せだった。その世界が他人にとってどう見えるかということには関心がなかった。私は自分が快適に遊べる遊園地を求めていたのだ。
あの感情をなくしてしまったのはいつだろうと考えた。(P.269から引用)
その遊園地の端っこで楽しませてもらっていた身にとっては、侘しい思いを余儀なくされる内容です。初めて本書を手にした時には、親分の変節を知って動揺する三下奴の気分を味わいました。
ただ、その後にも、「自分が快適に遊べる遊園地」の面白さを内包した作品は送り出されています。ガリレオシリーズ、中でも『容疑者Xの献身(文藝春秋社/2005)』からは、「あの感情」が完全に喪われていたわけではなかった事を示す、新しいけれども懐かしい雰囲気が漂って来ます。

天下一大五郎シリーズには三作目が存在するのですが、2001年の11月に出ると噂されたまま、それっきりになっていいます。天下一や大河原警部は勿論の事、『名探偵の呪縛』の門番の近況も知りたい私には、消えた『名探偵の○○(仮)ISBN:4062733005』の行方が気になってなりません。

2005年8月29日に更新
『名探偵の呪縛』の登場人物一覧
天下一大五郎 探偵
文田:主人公の担当編集者 / 大河原警部:県警本部に勤務 / 日野ミドリ:墓礼路市長の娘 / 日野市長:墓礼路市の市長・記念館保存委員会のメンバー / 月村博士:市立大学勤務・記念館保存委員会のリーダー・記念館の館長 / 管理人:記念館の門番 / 水島雄一郎:墓礼路市随一の資産家・記念館保存委員会のメンバー / 黒本:水島家の執事 / 水島春樹:水島雄一郎の息子・小太りの小男 / 水島夏子:水島雄一郎の娘・クラブホステスのような雰囲気 / 水島秋雄:水島雄一郎の息子・細身で小柄 / 水島冬彦:水島雄一郎の息子・細身で長身 / 火田俊介:売れっ子作家・記念館保存委員会のメンバー / 青野:火田俊介の弟子 / 赤木:火田俊介の弟子 / 白石:火田俊介の弟子 / 宇戸川:火田俊介の担当編集者 / 木部政文:新聞社社主・記念館保存委員会のメンバー / 金子和彦:文化人類学者・記念館保存委員会のメンバー / 土井直美:科学ジャーナリスト・記念館保存委員会のメンバー / フミ:日野が所有する別荘の管理人 / 角山:主人公の担当編集者