放課後
作品DATA
放課後
  • 出版社 講談社(ISBN:4062023423)
  • 発刊日 1985/09/10
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:406184251X)
  • 文庫発刊日 1988/07/15
  • Detail 第31回江戸川乱歩賞受賞作品
    同時受賞に、森雅裕さんの『モーツァルトは子守唄を歌わない 』。『風燈』『極秘新薬殺人事件』『阿片戦争殺人事件』が候補作に上がった。
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
私立清華女子高等学校の敷地内にある更衣室で、生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。事件現場は密室。
殺された教師には自殺する動機がない事から他殺事件として捜査が進められるが、進展がないままに第二の殺人事件が起こった。
生命の危機にさらされるような出来事を何度も経験した数学教師の前島は、自分が狙われた犯罪と確信するが、敵の正体をつかめず、不安な毎日を送る事になる。

第31回江戸川乱歩賞を受賞した、本格長編推理。
文庫の解説とカバーデザインは黒川博行さん、カバー挿画は黒川夫人の雅子さんが担当している。

作品Review
私が初めて『放課後』を手にしたのは、刊行されたその年、1985年の事です。 江戸川乱歩賞を同時受賞した『モーツァルトは子守唄を歌わない 』と、併せ読みました。
正直言って、内容の面白さでは森作品の方が勝っているように思えました。
ただ、『放課後』には、この人の作品をもっとたくさん読んでみたいと思わせる雰囲気がありました。

乱歩賞の選評では、「動機」に対する、厳しい意見が相次いでいます。
その点に関して、佐野洋さんは、
「犯人の年齢などを考えれば、多少エキセントリックであるにしても、あり得ることだと思う(『推理日記』)」と語っています。
また、書評家の関口苑生さんは、以下のように述べています。

キレたらすぐにナイフを振り回すという理由なき犯罪はともかくとしても、彼らがキレるにいたった事情は余人には窺い知れない部分がある(中略)。この作品の犯人にしても、「それ」が本人とっては一生を左右する重大事であると思い込むのは、十分に説得力がある。
もう少し突っ込んだ言い方をすれば、この犯人の殺人動機は、受賞当時としては信じられないようなものであったかもしれないが、今になって思えば、きたるべき時代の人間性――、精神の危機を見事に先取りしたものになっている。東野圭吾の時代を見る目の確かさ感じざるを得ない。(『江戸川乱歩賞と日本のミステリー』)
『放課後』の犯人は、出来事の直後に、いきなり殺害計画を思い立ったわけではありません。
恥ずかしい姿を覗かれた事はきっかけに過ぎず、本当の意味での動機は、時と共に膨れ上がって行った苦悩を排除するところにありました。
現実社会で頻発する少年犯罪の矮小な動機を思えば、『放課後』の動機もまた、大人には想像できない事に感応し、大人には及びもつかない行動に出るという点において、ありがちなもの、と言えるのかもしれません。

後味の悪い結末、という意見も多く聞かれますが、 私には、最上の終わり方と映りました。
私は、主人公が「教えて欲しいことがあるんだ」と前置きし、「怖くなかったのか・・・・・・人を殺すのは?」と呟くシーンが、気に入っています。それまでの探偵役には見られなかった乾いた優しさが、とても好ましく思えました。
けれどもその一方で、ここで主人公にこんな台詞を吐かせた作者は、どんな形で筆を置くのだろうと不安にもなりました。
前島が犯人を諭し、自首を促す、残された者は前向きな明日を考える、という終わり方は、『放課後』には似つかわしくないと思っていたからです。
生徒達にはマシンと呼ばれ、妻に対しても、決して良い夫ではなかった男が、新たな殺人者を生まないために死力を尽くす光景に、この作品に相応しい大団円を見た、と感じました。

『放課後』では、読者が、自分なりの「長い放課後」を描ける自由を与えられています。
私の中の前島は、今も清華女子高等学校の教壇に上がって、無駄話をしない数学教師を続けています。
あなたの中の前島は、今、どこで何をしていますか?

2005年9月17日に更新
『放課後』の登場人物一覧
前島教諭(30代前半) 私立清華女子高校の数学教師
洋弓部の顧問
栗原校長:前島の父親の戦友・清華女子高校の理事長を兼任 / 松崎教頭:清華女子高校勤務 /  村橋教諭:清華女子高校勤務・数学教師・生徒指導部の部長 /  麻生恭子:清華女子高校勤務・美人英語教師 /  竹井教諭:清華女子高校勤務・体育教師・陸上部の顧問 /  小田教諭:清華女子高校勤務・体育教師 /  藤本教諭:清華女子高校勤務・テニス部顧問 /  堀教諭:清華女子高校勤務・国語科の女性教師・バレー部顧問 /  志賀教諭:清華女子高校勤務・養護教師 /  坂東(バンさん):清華女子高校の用務員 /  高原陽子:生徒(3年生)・資産家の娘・怠学傾向にある /  杉田恵子:生徒(3年生)・洋弓部のキャプテン  / 北条雅美:生徒(3年生)・清華女子高校創設以来の才媛との風評あり・剣道部のキャプテン / 朝倉加奈江生徒(3年生)・洋弓部員 / 宮坂恵美:生徒(1年生)・洋弓部員 / 前島裕美子:前島の妻・夫婦に子供はいない / 栗原貴和:栗原校長の息子 /  大谷刑事:教師殺人事件の担当刑事 /  白石刑事:教師殺人事件の担当刑事 /  河村洋一:高原陽子の遊び仲間 / 本間:清華女子高校のPTA役員