変身
作品DATA
変身
  • 出版社 講談社(ISBN:4061939963)
  • 発刊日 1991/01/12
  • ノベルス 講談社ノベルス(ISBN:4061816896)
  • ノベルス発刊日 1993/06/05
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4061856987)
  • 文庫発刊日 1994/06/15
  • Detail 日本出版販売株式会社が映画化。
    映画版『変身』公式サイトこちらのページ
    出演:玉木宏(成瀬純一) / 蒼井優(葉村恵) / 他
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
職場では「お利口さん」という渾名をもらう少し気弱な好青年、成瀬純一が、狙撃事件に巻き込まれて瀕死の重傷を負った。幼女を助けようとして、自らが被害に遭ったものである。
善意の青年を救うために、最先端医療が施された。脳移植手術である。純一の体力は順調に回復し、職場復帰も果たすのだが―。
純一は、深い愛情を寄せていた恋人、葉村恵を疎んじ始めている自分に気付き、愕然とする。画家になる日を夢見た頃もあったのに、今は絵筆を握る事にも大きな苦痛を覚える。
変わっていく自分に恐れを抱いた純一は、その原因を探るための行動を起こした。そこで彼は、巧妙に隠蔽されていた、恐るべき真実に辿り着く。

自己崩壊がもたらす苦悩を、緻密な構成と丁寧な情景描写で綴った長編サスペンス。2005年11月には、映画公開が予定されている。

作品Review
『変身』は、主人公の主観を、三つの客観的な視点、「堂元ノート」・「葉村恵の日記」・「倉田謙三のメモ」が補う形で進行して行きます。
成瀬純一が、死の淵から生還するまでを記した導入部では、喜びに包まれた光景が描かれますが、長くは続きません。
「堂元ノート3」に登場する、<解析不能な特異点がいくつか見つかった>という文字に、読者は、最初の不安を覚えます。
それは次第にはっきりとした輪郭を持つ事となり、 担当刑事である倉田謙三のメモには、<成瀬の印象が予備知識と違っていた>と記録されました。

主人公の精神は、徐々に、しかしながら確実に、ドナーの魂に侵食されて行きます。そして、予想されていた事ではありますが、彼の中の勢力分布図が塗り替えられる瞬間がやって来ます。
ピアノの音色が触媒となり、ドナーの精神が、本来の純一を片隅に追いやってしまいました。「僕」は「俺」になりました。
「葉村恵の日記」にあった<あたしの幼い考えが生んだ不吉な妄想を、決して現実のものにしないで下さい>という願いは、無残に打ち砕かれる恰好となってしまいます。

本作は、脳の持つ深遠で未解明な要素に焦点を当てたものですが、東野さんに、最先端医療のあり方に警鐘を鳴らす意図があったかどうかは不明です。
ドナーの人となりにも相応の魅力を感じていた私は、二人を上手く「生かす」結末を望みましたが、それは、この物語には相応しくないものだったでしょう。

何度か読み返している『変身』ですが、いつも疑問に感じる事があります。
純一とドナーの間には、10万分の1の奇跡を手繰り寄せる事が可能なぐらいの、親和性が存在しました。それはつまり、ドナーの中にある悪質な異分子を受け入れる素地が、純一にも備わっていた事を意味するのでしょうか?
彼は、本当に、脳移植によって侵入して来た別人と戦ったのでしょうか?もしかしたら、純一の中に眠っていたいびつな細胞が、外的な刺激を受ける事で覚醒してしまったのではないでしょうか?
父親と鼠に絡むエピソードからは、先端科学には無縁の脅威が垣間見え、足元を揺すぶられるような思いを余儀なくされました。

葉村恵の愛情の深さには、胸を打たれました。
ラストの一行には、いつも泣かされてばかりです。

2005年9月19日に更新
『変身』の登場人物一覧
成瀬純一(24歳) 産業機器メーカー勤務
機械の修理と苦情処理が主たる仕事
葉村恵:画材ショップの店員・純一の恋人 / 堂元博士:東和大学医学部脳神経外科教授・純一の脳移植手術を執刀 / 若生医師:東和大学医学部脳神経外科助手・脳移植手術のスタッフ / 橘直子:東和大学医学部脳神経外科助手・脳移植手術のスタッフ / 光国教授:心理学者・純一の精神分析を担当 / 葛西三郎:純一の勤務先の同僚 / 芝田:純一の勤務先の古株 / 矢部則夫:純一の勤務先の同僚 / 酒井:純一の勤務先の先輩 / 班長:純一の勤務先の上司 / 京極瞬介:純一を狙撃した犯人・事件後に自殺 / 京極亮子:瞬介の双子の妹 / 関谷時雄:純一のドナー / 嵯峨道彦:弁護士 / 嵯峨典子:道彦の娘・純一に命を助けられる / 牧田:ピアノ教師 / 臼井:大学生・純一のアパートの隣人 / 関谷時雄:交通事故で死亡・純一のドナー / 倉田謙三:純一が狙撃された事件の担当捜査官 / 番場哲夫:京極瞬介の父親 / 蒲生:幼馴染