白馬山荘殺人事件
作品DATA
白馬山荘殺人事件
  • 出版社 光文社/カッパノベルス(ISBN:4334026656)
  • 発刊日 1986/08/31
  • 文庫化 光文社文庫(ISBN:4334026656)
  • 文庫発刊日 1990/04/20
  • Detail 作者は『マザーグースの宿の殺人』というタイトルを用意したが、出版社の要望で改題された。
    解説は権田萬治さん。
  • お薦め度 ☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆
作品Outline
大学生、原菜穂子の兄が、「マリア様が、家に帰るのはいつか」と言うメッセージを残して死んだ。彼の亡くなった部屋が密室状態であったために警察は自殺として処理するが、得心できない菜穂子は親友の真琴の助力を得て、真相解明に乗り出す。

冬の白馬、マザーグースの歌に秘められた暗号、密室、そして意外な結末―、
本格物の必須アイテムが勢揃いした傑作長編推理。

作品Review
初めて読んだ時には、隔離された空間で起こる連続殺人事件、と思い込んでいたものですから、肩透かしを食らったような気分にさせられました。
ドカ雪で道路が寸断される事はなかったし、電話線も切れず仕舞い―。警察が早々に到着し、事件の舞台となったペンションに居座ったせいで、バタバタと人が死んで行くという展開にもなりませんでした。
ただ、本筋には影響しませんが、序盤から「いきなりこう来るか!?」と思わせる陥穽が仕掛けられていた事もあり、演出に新鮮な魅力が漂う作品、という印象を持ちました。

原題は『マザーグースの宿の殺人』で、白馬とは何の関係もない物語だったようです。マザーグースの歌詞を用いた暗号トリックと密室殺人を描いた本書のタイトルには、原題の方が似つかわしかったのではないかと思いました。

時代描写が巧みに盛り込まれているせいか、刊行から19年の歳月を経たこの時代に読むと、幾つかの光景に旧さを感じてしまいます。
現代なら、列車内を、カラフルなスキーウエアに身を包んだ若者が行き交う事はないでしょう。テニスをナンパの道具にする男性もいないでしょう。登場回数が最も多い医師夫妻からも、クラシカルな言い回し――、当時としては十分に新しくお洒落であったものの、今となれば色褪せて見えるやり取りが目立ちました。
何よりも、主人公である原菜穂子の言動に、物足りなさを覚えてしまいます 。最近のヒーロー・ヒロインには、個性豊かな人物が目立ちますから―。
菜穂子にも、沢村マコトの才気煥発ぶりを吸収したぐらいのパワーが、必要だったかもしれません。

この年、1986年に、『キャッツアイころがった』が第4回サントリーミステリー大賞を受賞しました。作者の黒川博行さんは、(前年までの候補作に登場していた)クロマメコンビには「華がない」と評されたため、女子大生を主人公にした事が功を奏した、と述べていました。今の時代ならば、正反対の評価になっていたと思われます。
菜穂子とマコトのコンビも、時代の要請に合わせたキャラクター、という事になるのでしょうか?

謎が解明されていくシーンには読み応えがあります。
読者探偵を惑わす記述が少ない作品であるため、全てのピースが、過不足なく、所定の場所に収まって行きました。
1980年代後半、バブル期を迎える直前の、華やかさと活気に溢れた時代の様相を知っている本格ファンには、お薦めしたい一冊です。

2005年10月18日に更新
『白馬山荘殺人事件』登場人物一覧
原菜穂子(20〜21歳) 大学3年生
沢村マコト:準主役・大学3年生・菜穂子の親友 / マスター(霧原):ペンション「まざあ・ぐうす」のオーナー / シェフ:「まざあ・ぐうす」の料理長・マスター(霧原)の親友 / 高瀬:「まざあ・ぐうす」の男性従業員 / クルミ:「まざあ・ぐうす」の女性従業員 / 益田夫妻:夫の通称はドクター・老夫婦・「ロンドンブリッジとオールドマザーグース」の部屋に宿泊 / 大木:甘いマスクに軽佻浮薄な性格・「セントポール」の部屋に宿泊 / 江波:昆虫や鳥に関する知識が深い・「ジャックとジル」の部屋に宿泊 / 上条:ドクター相手にチェスを楽しむ事が多い・「ミル」の部屋に宿泊 / 芝浦夫妻:腰が低い夫と美人で控え目な妻・「ガチョウと足長じいさん」の部屋に宿泊 / 中村・古川:会社員の二人組・「旅立ち」の部屋に宿泊 / 村正警部:事件の担当捜査官 / 川崎一夫:故人・宝石店経営者 / 啓一:川崎一夫の息子