幻夜
作品DATA
幻夜
  • 出版社 集英社(ISBN:4087746682)
  • 発刊日 2004/01/26
  • 文庫化 未定
  • 文庫発刊日未定
  • Detail 第131回直木賞候補作
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
1995年1月17日午前5時46分に発生した「兵庫県南部地震」が、この地方に住む人々の人生を大きく変容させた。死者6,433名、行方不明者3名、負傷者43,792名という、未曾有の大惨事を生んだこの災害は、後に、「阪神・淡路大震災」と称される事となる。
その前夜、水原雅也の家では、彼の父親である幸夫の通夜が営まれていた。借金を抱えた挙句の自殺だった。
眠れない夜を過ごした雅也に、突然の奇禍が訪れる。轟音・激震・破裂音の果てに、雅也の周囲では、幾つもの瓦礫の山が築かれた。「兵庫県南部地震」の発生であった。
水原家の母屋に寝ていた叔父の俊郎は、梁の下敷きになってぴくりとも動かない。呆然となる雅也だが、叔父の懐から飛び出している書類、父親が残した借用書に気付き、奪い取った。ところが、俊郎は絶命していなかった。動揺した雅也は叔父の頭部を殴打し、殺害してしまう。
「もうここには用はない」と、その場を去ろうとした雅也であったが、彼の目の前には若い女が立っていた。

大震災の混乱の中で出会った男女の、運命の変遷を描く長編サスペンス。

作品Review
『幻夜』は『白夜行』との関連が深い作品です。
この点について東野さんは以下のように語っています。
どちらから読んでもらってもいいのですが、両方読めば両方読んだなりの面白さがあると思います。ただ『白夜行』の“続編”にはしたくなかったので、『幻夜』を書くとき、そこは苦労しました。ズバリ書いてしまうのは無粋。両方を読んだ人同士でいろいろ想像して盛り上がってくれればいいな、と思っています。(s-woman.net「東野圭吾スペシャルインタビュー」より)
私ならば、 どちらもが未読という人に対しては、 「『幻夜』から先に」と勧めます。
『白夜行』から読んでしまうと、続編としての位置付けから逃れられず、結果的に、この作品の本来の面白さを堪能する事が困難になるのでは?と思うためです。刊行順に読んでしまった者が口にできる事ではないのですが…。(笑)

初めて『幻夜』を読んだ時の美冬の印象は、惨憺たるものでした。
『白夜行』の雪穂に対して抱いていたイメージが一気に塗り替えられてしまった口惜しさが、美冬への悪印象へと繋がったものだと思います。
何度か読み返して行く内に、雅也の前に立つ美冬に、彼女の素顔を見たような気になるのは誤りであると気付きましたが、凛とした潔さと映っていたものがグニャリと歪んだその瞬間は、余計なものを見てしまったような気分にさせられました。

ところで、本作の準主役とでもいうべき位置にある水原雅也は、何度も同じ疑問を吐露しています。
美冬は何を望み、どこ向かおうとしているのか?
彼女の幸福感は、どのようにすれば満たされるのか?
これらは、大方の読者が思い描く事でもあるでしょう。
彼女は明らかな成功者であるにも関わらず、その喜びや充足感といったものが読者の側には伝わって来ません。
美冬は「自分達は夜の道を行くしかない」と語りますが、夜の道しか選択肢がないというよりも、好んでそうした道を進んでいるかのような印象が残ります。

美冬をギリギリまで追い詰めた加藤刑事は彼女に対し、「あなたはまるで何かに操られているみたいだ」と語っています。更に彼はトラウマが原因か?と言い添えて、その想像を一蹴されてしまいますが、本当のところはどうなのでしょう。
作者自身も、トラウマを否定する発言を残しています。
不幸な生い立ちによる悪影響という分かり易い構図を打ち消されてしまう事で、この疑問は解き明かされぬままとなってしまいました。
東野さんには更なる続編を書いていただいて、せめて終章だけでも、美冬に視点を持たせて欲しいものだと思います。 東野作品の面白さは、登場人物の心情を自由に類推できるところにもあるのですが、私には美冬の思いを忖度する事が叶わなかったものですから…。

安寧を厭い、座して待つという事を嫌悪する美冬には、どんな未来が用意されているのでしょう。
彼女には、虚像の美を追求するだけの女性で終わって欲しくはありませんし、いっそなら社会全体を手玉に取るような「大きな仕事」をして欲しいものだと思っていますが―、
「刑事はみんな犬みたいに鼻がきくけど、中でも特別に鋭いやつがおる」と言わしめた御仁が、最後の最後で、その野望を粉砕してしまいそうな予感がないでもありません。

2005年9月5日に更新
『幻夜』の登場人物一覧
新海美冬 阪神・淡路大震災の被災者
水原雅也 阪神・淡路大震災の被災者
水原幸夫:雅也の父親・経営する町工場の業績不振で自殺 / 米倉俊郎:雅也の母方の叔父・時計眼鏡の卸売業 / 米倉佐貴子:米倉俊郎の娘 / 小谷信二:米倉佐貴子の内縁の夫 / 新海武雄:美冬の父親・元商社勤務 / 新海澄子:美冬の母親 / 木村:ビデオの撮影者 / 藤村奈美恵:ホステス・被災した木村が身を寄せている / 倉沢克子:テレビ局勤務・レポーター / 塩野:テレビ局勤務・カメラマン / 秋村隆治:高級宝飾店「華屋」の社長 / 畑山彰子:高級宝飾店「華屋」の販売員 / 桜木:高級宝飾店「華屋」の販売員 / 浜中洋一:高級宝飾店「華屋」のフロア長 / 浜中順子:浜中洋一の妻 / 坂井静子:高級宝飾店「華屋」の販売員 / 加藤亘:警視庁捜査一課の刑事 / 向井班長:警視庁捜査一課の刑事 / 西崎刑事:警視庁捜査一課に勤務 / 福田:フクタ工業の経営者 / 中川:フクタ工業の職人 / 前村:フクタ工業の職人 / 安浦達夫:フクタ工業の元職人 / 有子:定食屋「おかだ」の娘 / 青江真一郎:美容師 / 飯塚千絵:美容師・青江の恋人 / 曽我孝道:商社勤務 / 曽我恭子:曽我孝道の妻 / 曽我遙香:曽我孝道の娘 / 菅原:商社勤務・曽我孝道の同僚 / 神崎:商社勤務・曽我孝道の元同僚 / 坂本:新海夫妻が借りていたアパートの家主 / 浜田美香:美容室「モン・アミ」の従業員 / 中野亜美:美容室「モン・アミ」の従業員 / 緒方刑事:玉川署勤務 / 桑野刑事:玉川署勤務 / 倉田頼江:秋村隆治の実姉 / 倉田茂樹:頼江のの航空工学博士 / 倉田光一:頼江の息子・医師 / 草野:倉田茂樹の助手 / 長井夫妻:新海武雄・澄子夫妻の元隣人 / 中越慎太郎:京都の土産物屋「ミツヤ工芸」店主 / 深沢元教諭・「深沢書店」店主: / 日下部:雅也の取引相手 / 野瀬真奈美:家具メーカーのショールームに勤務・新海美冬の元同僚 / 西部春子:秋村隆治宅の家政婦 / 富岡刑事:生活安全課勤務