学生街の殺人
作品DATA
学生街の殺人
  • 出版社 講談社(ISBN:4062033720)
  • 発刊日 1987/06/24
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:406184721X)
  • 文庫発刊日 1990/07/15
  • Detail 第41回日本推理作家協会賞(長編部門)候補作
    文庫の解説は新保博久さん
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
澱んだ空気を掻き回しているだけに見えた学生街で、一人の男が殺された。第一発見者は津村光平、この街の寂れたビリヤード場でホールスタッフとして働いている。大学卒業後の指針が定まらない光平に対して被害者は、「夢見るだけじゃ駄目だぜ。自分が動かなきゃ、世界は変わらないんだ」と言っていた。
被害者は、夢のために動き、それが原因で殺害されたのか!?
事件解決に向けての果々しい進展がないままに、事態は、更に深刻な様相を呈して行った。
洒脱で聡明な刑事と姉を失った女子大生、そして、主人公の光平が、それぞれの思いに殉じた真相解明に挑む。

青春群像記の要素も併せ持つ、本格長編推理。

作品Review
本書は、モラトリアム型フリーターである主人公が、恋人の堕胎を詰るシーンから始まります。
『放課後』の前島教諭が、子供を育てられる環境にありながらもそれを拒み、妻との関係をぎくしゃくさせて行ったのとは対照的に、この物語の主人公は、
「産めば良かったじゃないか」と言い放ち、
「産んでどうするの?」との問いにも、
「育てる。僕が面倒をみる」と切り返す男です。
自分の身過ぎ世過ぎもままならない人間が何を言うと呆れながらも、その人となりには、好感を持ちました。危うげに見える生き方も、こんな男だから、このまま朽ちて行く事はない筈、と思わせました。
堕胎、ハスラー、そして殺人」の章で、主人公である津村光平の輪郭がはっきりと読み取れたせいか、 刊行当時には「何と分厚い本」と思わせるページ数を持った作品であるにも関わらず、一気に読み進める事ができました。

『学生街の殺人』は、章ごとに長いサブタイトルが用意されています。
「妹、刑事、そして密室」「クリスマス・ツリー、ブレイク・ショット、そしてレザー・ジャケットの男」「謎解き、対決、そして逆転」「霊園、教会、そしてサヨナラ」。
東野圭吾作品を刊行順に読んでいる人なら、こんな言葉が口を突いて出たかもしれません。
また密室か―。
密室物が特に好きというわけではない私には、飽食感の漂う言葉でもあったのですが、読み終えた後には、違う感慨に捉われていました。
それは、哀切を内包した密室、泣かせる密室でした。

衰退しつつある学生街を舞台にした物語、濃密過ぎず、さりとて、希薄に偏ることもない人間関係、こういう世界での暮らしも悪くないだろうなと思わせる狭いエリアで、事件は起こってしまいます。しかもそれは、連続殺人事件―。
犯人探しには切なさが伴いますが、「トリックや意外性に重点を置いた作品は苦手」という人でも楽しむ事のできる本格ミステリではないかと思います。

本作には、ちょっとした隠し玉が用意されています。
物語全体への影響力はありませんが、加賀恭一郎シリーズのファンには、思わずニヤリとさせられる展開が待っています。
私は、「なんだなんだ!時系列は、そんな具合になっていたのか」と、声には出さない嬌声をもらしたものでした。

作品の疵、というほど大袈裟なものではありませんが、クラシック音楽への関わりが深い人にとっては、ちょっと気掛かりな表記があります。
そこの部分が現実に即したものであったら、私は、『白夜行』と肩を並べる大傑作!と、騒ぎ立てていた事でしょう。
書店員さんの推薦によって、初期の東野圭吾作品が再評価されていますが、『学生街の殺人』も是非、「オススメの一冊」に加えてください。

2005年10月20日に更新
『学生街の殺人』の登場人物一覧
津村光平(23歳) ビリヤード場「青木」のホールスタッフ
親には大学院に在籍していると説明
有村広美:光平の恋人・カフェバー「モルグ」の共同経営者 / 松木元晴:「青木」のフロア責任者・自宅アパートで何者かに殺害される・本名は杉本潤也 / 佐緒里:「青木」の従業員 / マスター:「青木」の経営者 / 井原:通称「ハスラー紳士」・「青木」の常連客 / 武宮:工学部の修士課程に在籍・佐緒里に執心している / 太田:通称「助教授」・電子工学科の助教授 / 日野純子:カフェバー「モルグ」の共同経営者・広美の親友 / 時田:「モルグ」の常連客・書店経営者 / 島本:菓子屋の店主・商店街の自治会長 / 有村悦子:広美の妹・短大生 / 堀江園長:養護施設「あじさい学園」の園長 / 佐伯良江:保険の外交員・子供が「あじさい学園」に入所していた / 斎藤:医師・「あじさい学園」での診療も行っている / 田辺澄子:「あじさい学園」の職員 / ジロー:ビリヤード場「カラー・ボール」の従業員 / 長谷部賢一:故人・泥酔して川に落ち水死 / 相沢高顕:セントラル電子の研究員・松木元晴(杉本潤也)の元同僚 / 山野:新日電機の研究員 / 上村刑事:松木殺害事件を担当した所轄署の捜査官 / 香月刑事:事件の担当捜査官 / 田所刑事:事件の担当捜査官・香月の後輩