鳥人計画
作品DATA
鳥人計画
  • 出版社 新潮社(ISBN:4106027100)
  • 発刊日 1989/05/25
  • 文庫化 新潮文庫(ISBN:4101395217)
  • 文庫発刊日 1994/08/01
  • 二次文庫化 角川文庫(ISBN:4043718012C0193)
  • 二次文庫発刊日 2003/08/23
  • Detail 第11回吉川英治文学新人賞候補作
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆☆
作品Outline
和製ニッカネンとの異名を取った天才ジャンパーが毒殺された。不振が続く日本ジャンプ界にあって、彼、楡井明だけは世界の頂点をも伺える強さを持っていた。そんな彼がなぜ―。
捜査は難航を極めたが、一通の「密告状」から活路を見出す。そして警察は、 この上もなく「意外な」人物を逮捕した。周囲は驚きの色を隠せない。容疑者が、被害者の死で最も大きな痛手を受ける筈の人間、楡井の専属コーチである峰岸だったからだ。 完全犯罪を確信していた峰岸自身もまた、この予想外の展開に動揺を禁じ得ない。
捜査陣は、峰岸が黙して語らない「動機」の追求に、峰岸は、「密告者」の探索に全力を傾けるが、その行き先には更なる驚愕の真実が待っていた。

アマチュアスポーツ界の厳しい現実と苦悩、勝利への執着心に翻弄される人々の悲哀を描いた珠玉の東野ミステリ。

作品Review
『鳥人計画』が刊行された頃の日本ジャンプ界は、完全な低迷期にありました(現在もまた、何度目かの不遇期を迎えていますが…)。
従って、帯の惹句を読んでも、興味や期待感が全く沸いて来ません。作者が東野圭吾さんでなければ、絶対に買わないと思えるジャンルの作品でした。
ところがいざ蓋を開けると、休憩さえもが惜しく思える程の勢いで読了してしまいました。楡井が放つ不思議な魅力と、科学を核に置いた緻密で独創的な構成に、一気に呑み込まれて行ったのです。

私が知らなかっただけかもしれませんが、当時の東野さんには、まだ、理系作家という呼称が与えられていなかったように思います。そのため、分解写真を線画で表した図や、加速度曲線なるものを見せられた瞬間には、少なからぬ戸惑いを覚えてしまいました。
ところが、読み進むにつれ、そうした面妖な図形までもが、わくわく感を醸成する触媒へと変質して行きます。
『変身』『分身』『パラレルワールド・ラブストーリー』にガリレオシーズを加えた一連の作品が、理系作家東野圭吾さんならではの科学ミステリとして高い評価を受けていますが、『鳥人計画』はその原点と呼べる作品なのかもしれません。

本作は、完全犯罪を確信していた犯人、峰岸が、自分の計画を頓挫させた人物を推理するという、特異な手法が取られています。
犯人当てを楽しみたいミステリファンには、気勢をそがれてしまいそうな展開、ということになるのかもしれませんが、実際には、犯人でさえもが予想だにしない、意外な結末が用意されています。

私は、『鳥人計画』を、東野さんの全刊行物の中で、「二番目に好きな作品」として挙げています。
その一番の理由は、序盤で死んでしまった登場人物の魅力が、ページを追うごとに膨れ上がって行くところにあります。周辺の人々の視点を通して語られる天才ジャンパーの言動に、戸惑い呆れつしながらも、気が付けば、気持ちの真ん中を占拠されていたという感じです。
従って、楡井明のようなタイプの人間を苦手にする人が読めば、何ということもない平凡な一冊になってしまう可能性もあるのですが…。

終章に記される楡井明の台詞が、この上もなく切なくて、哀しくて、読み返すたびに泣かされています。
何でこんなイイ子を死なせてしまったんだ!○○さん。

2005年11月15日に更新
『鳥人計画』の登場人物一覧
峰岸貞男(30代半ば) ジャンプ競技のコーチ・原工業勤務
楡井明:和製ニッカネンの異名を取る天才ジャンパー・原工業労務課勤務 / 杉江夕子:幌南スポーツセンター勤務・楡井明の恋人 / 三好靖之:全日本チームの総監督 / 杉江泰介:日星自動車スキー部監督・杉江夕子の父親 / 杉江翔:ジャンパー・日星自動車スキー部所属・杉江泰介の息子 / 深町和雄:元ジャンパー・日星自動車勤務 / 島野悟郎:故人・元ジャンパー・元日星自動車従業員 / 小泉透:元ジャンパー・日星自動車勤務 / 片岡正明:日星自動車スキー部のトレーナー / 田端:氷室興産スキー部監督 / 沢村亮太:ジャンパー・氷室興産スキー部所属 / 日野幸博:ジャンパー・氷室興産スキー部所属 / 池浦:ジャンパー・氷室興産スキー部所属 / 浜谷:氷室興産スキー部コーチ / 笹本:氷室興産スキー部のトレーナー / 中尾:帝国化学スキー部コーチ / 藤村幸三:故人・原工業の元工場長・ジャンプ競技の元コーチ / 藤井加奈江:レストラン「ライラック」のウェイトレス / 井上:レストラン「ライラック」の責任者 / 有吉幸広:北東大学助教授・バイオメカニクスの研究 / 神崎:有吉幸広の助手 / 角野:宮の森シャンツェ管理事務所の管理人 / 石田医師:楡井明にビタミン剤を処方していた / 立花直次:故人・アイヌ研究家 / 山本悟郎:故人・アイヌ研究家 / 根元:アイヌ研究家 / 寮長:原工業独身寮の青年 / 白木:原工業独身寮の監督 / 草野文雄:楡井明の伯父 / 峰岸梅子:峰岸貞男の母親 / 峰岸竜雄:峰岸貞男の兄 / 峰岸早苗:峰岸竜雄の妻 / 久野:スポーツ記者 / 杉江文代:杉江泰介の妻 / 加藤主任:札幌西警察署刑事課捜査一係勤務・事件の担当捜査官 / 佐久間公一:札幌西警察署刑事課捜査一係勤務・事件の担当捜査官 / 新見巡査:札幌西警察署刑事課捜査一係勤務・事件の担当捜査官 / 河野警部:北海道警察本部捜査一課勤務・班長・事件の担当捜査官 / 須川利彦:北海道警察本部捜査一課勤務・事件の担当捜査官