ある閉ざされた雪の山荘で
作品DATA
ある閉ざされた雪の山荘で
  • 出版社 講談社ノベルス(ISBN:4061816071)
  • 発刊日 1992/03/05
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4061859099)
  • 文庫発刊日 1996/01/15
  • Detail 文庫の解説は法月綸太郎さん
  • お薦め度 ☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
オーディションに合格した役者志望の男女7人が、乗鞍高原のペンション『四季』に集められた。指示を出したのは、敏腕演出家の東郷陣平。そこで演出家は、彼らに奇妙な形の「舞台稽古」を命じる。仮想の場所で起こる仮想推理劇の登場人物を演じろと言うものである。7人は戸惑いながらも、演出家の指示に従う。

豪雪のために交通手段も通信機能も失った、と想定された山荘で、一つ目の殺人劇の幕が上がった。被害者役は退場。そしてまた一つ―。
だがここで、残された演技者たちは状況の不自然さに気付く。
これは本当に「舞台稽古」なのか?

驚愕の結末の中にも爽快感を残す、本格長編推理。

作品Review
私は、クローズド・サークルと呼ばれる、事件が、外界と遮断された状況下で起こるタイプのミステリが大好きです。「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」を想像させるタイトルを見つけると、一も二もなく、飛びついてしまいます。
ただ、今の日本では、そうした事件を生み出すことがかなり困難な状況になって来ました。携帯電話の不感地域、自衛隊や消防庁、警察庁の精鋭でも手が出せない場所というのは、滅多やたらに存在するものではありませんから―。

『ある閉ざされた雪の山荘で』の舞台は、山間部ではあるものの雪はなく、電話も使用可能な状態ですが、見事なクローズド・サークルが出来上がっています。登場人物が、「吹雪の山荘に閉じ込められた若者」を演じるように命じられた、役者の卵達だからです。

最初の「犠牲者」が出た時点で、大方の読者は、「これは舞台稽古ではなく、本物『事件』なのではないか?」という印象を抱いたものと思われます。私もそうでした。
次の「犠牲者」はやや意外な人物でしたが、「吹雪の山荘もの」特有のワクワク感を満喫しながら、犯人探しのために、決して上等とは言えない脳細胞をフル回転させました。
ところが、 犯人当てに必要なカードが出揃わないままに、物語は最終章に迎えます。探偵役が、「容疑者」を一同に集めての謎解きを始める光景を、ただ呆然と見守るばかりでした。いや、真相を看破した読者も居るのでしょうが、私はダメでした。

余りにも意外な結末に言葉を失ってしまいました。
初めて読んだ時には、「ズルイ!」「アンフェアだ!」と叫んだものでしたが、再読してみると、そうではなかったことに気付かされます。
東野圭吾さんの巧さに、ものの見事に、してやられました。
ただ、これは嗜好の問題になってしまいますが、ラストの処理に関しては不満が残りました。
爽やかと感じる人もいるでしょうが、私には安直と映りました。

さして魅力的とは思えない久我和幸が主役級の扱いになっていることにも不満を覚えたのですが、それが、真相に辿り着けなかった原因でした。
久我の視点がなければ、成立し得ない作品だったのです。

クローズド・サークルが好きなミステリファンにお薦めしたい一冊です。

2005年11月1日に更新
『ある閉ざされた雪の山荘で』の登場人物一覧
久我和幸(20代後半) 役者・「堕天塾」の元劇団員・劇団「水滸」の出演者公募(オーディション)に合格し、正規団員と共に合宿に参加
笠原温子:女性メンバーのリーダー格・演技力は平凡 / 雨宮恭介:男性メンバーのリーダー格・演技力は平凡 / 元村由梨江:演技力は低いが抜きん出た美貌を持つ / 本多雄一:外見は粗野だが芝居に関しては実力派 / 中西貴子:白痴的な色気と才能を併せ持つ / 田所義雄:由梨江への好意を隠さない・感情の起伏が激しい(以上6名は劇団「水滸」の正規団員) / 小田伸一:ペンション「四季」のオーナー / 東郷陣平:劇団「水滸」の演出家 / 麻倉雅美:劇団「水滸」の元団員・出演者公募(オーディション)に失敗した後に自殺を図る

備考:ペンションに集結した7人のメンバーの中では、久我だけに「視点」を与えられているが、本当の意味での主役には当たらない。