悪意
作品DATA
悪意
  • 出版社 双葉社(ISBN:4575232645)
  • 発刊日 1996/09/20
  • 文庫化 講談社文庫(ISBN:4062730170)
  • 文庫発刊日 2001/01/15
  • Detail NHKでドラマ化  探偵役は加賀恭一郎ではなく、西原甲子男(さいばらきねお)という、原作にはない刑事が演じた。
  • お薦め度 ☆☆☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
人気作家の日高邦彦が殺害された。日高の友人であり、童話作家である野々口修は、事件の第一発見者でもあった事から、自身が見聞した顛末を手記にまとめ、 事情聴取にやって来た担当刑事に提示する。だが、結果的にはその手記の齟齬が原因で、彼の犯行、日高殺害が暴かれてしまう。犯人、野々口修は、隠蔽工作の一環として、その手記を著したのであった。
野々口は、犯行の一部始終を告白したものの、動機については多くを語ろうとしない。なぜ彼は、日高邦彦を殺さねばならなかったのか?
幾重にも仕掛けられた罠と心理トリック、複雑で深遠な謎に加賀恭一郎が挑む傑作長編ミステリ。
作品Review
『悪意』は、加賀恭一郎シリーズの第四弾に当たります。初出は『卒業-雪月花殺人ゲーム』、教師を志望する大学生として登場しました。
本作では、念願叶って中学校の社会科教師になった加賀が、転職するに至った事情についても触れられています。望外のサービスを受けたような気持ちになりました。言わずもがなではありますが、「恋の行方」に関しても一言添えられていたならと―。

『悪意』では、野々口修の「手記」と加賀恭一郎の「記録」「独白」「回想」「捜査メモ」が交互に登場するという、やや特殊な形式が取られています。
ミステリの場合、地の文以外はうかつに信用してはいけない、という不文律があります。 東野圭吾さんは、一作ごとに目新しい工夫や仕掛けを施す作家でもありますから、それなりの覚悟を持って臨んだ『悪意』でしたが、ものの見事にしてやられました。
この幾重にも張り巡らされた罠をくぐり抜ける事ができた読者など、存在しないのではないかと思われます。もし居たとしたら―、ストーリーテラーの側に廻るべきです。犯罪コンサルタントとしても成功を収めそうではありますが…。

この作品は、独特の「怖さ」を内包しています。
犯人の仕掛けた陥穽は、優れたトリックというよりも、人間の深層心理を巧く利用したものであったからです。加賀 は「お見事でした、としかいいようがありません」と述べていますが、大方の読者はその台詞に、「確かに脱帽です。お見事でした、東野圭吾さん」と返した事でしょう。

ミステリのトリックを実際の犯罪に用いるには、かなりな困難が伴います。誘拐事件の現金受け渡し法等で模倣されたケースはありますが、割合で比較すれば、微々たる数でしかないでしょう。
けれども『悪意』は違います。 多少のリスクは伴いますが、誰にでも実行可能な犯罪です。誰もが被害者となり得る危険性を持つ犯罪です。どうか、フィクションの世界の事だけに留まっていて欲しいと願わずにはいられませんが、実際のところはどうなのでしょう?物言わぬ被害者が不要に貶められるケースは数多く存在しますし、書き換えられたデータを真実と認識している例も、少なくないのかもしれません。

東野さんは、『悪意』に絶対的な自信を持っていたそうです。ところが、読者が好意的に迎え入れたのは、同じ年に刊行された『名探偵の掟』の方でした。「これには正直いって凹んだ」との事ですが、私はタイトルが影響したのではないかと思っています。
ミステリファンには最高の殺し文句である「名探偵」に較べると、「悪意」はあまりにも平凡です。『猫は知っていたかも』なら売れ行き倍増だったと思うのですが、如何なものでしょう?

2005年8月20日に更新
加賀恭一郎のProfile
  • 姓名 加賀恭一郎
  • 職業 警察官
    勤務先: 高柳バレエ団に関する一連の事件を扱った時には警視庁捜査一課勤務。その後、練馬署に移動し、現在(2006年)は久松署勤務。
    役職: 1996年に、加賀は、巡査部長と記された名刺を提示し、「どうせ使い切る前に、新しいのを作ることになるんですから…」と発言している。同年に殺害された和泉園子の兄康正は、これを転勤か昇進のためと推測した。1999年度も練馬署勤務である事と併せて類推すると、役職は警部補である可能性が高い。
  • 身体的特徴 長身で肩幅が広い。容疑者達の言葉を借りれば「爽やかとでも形容できそうな顔で笑う」が、捜査現場では隙のない鋭い目を光らせている。彫りの深い顔立ちであるため、逆光では目元が黒く見える。顎は尖っている。喫煙をしないので歯が白い。
  • 特技 剣道:国立T大在学中に全日本選手権で優勝。
  • 趣味 茶道・クラシックバレエ鑑賞
  • 加賀恭一郎が解決した事件を紹介した書籍
    『卒業-雪月花殺人ゲーム-(国立T大在学中の事件)』『眠りの森』『どちらかが彼女を殺した』『悪意』『私が彼を殺した』『嘘をもうひとつだけ』『赤い指』
  • 人物評定 国立T大在学中は、剣道部の部長を務める等して、リーダーシップと協調性に富んだ人物であったが、警察官になってからは、単独行動が目立つ。能弁ではないが、寡黙でもない。情は深いが冷静沈着。犯罪者に対しても優しさや思いやりを失わないのは、大学時代の苦い経験が影響しているためか?それとも―。
    社会学部出身の、所謂、文系人間だが、工学・化学・情報科学への造詣も深い。
  • 恋の遍歴 高校・大学を共に過ごした相原沙都子にプロポーズするも、見事に撃沈。沙都子の方は、好意はあるが恋情には至らない、といったところか。
    但し、『眠りの森』では、沙都子を「大学時代の恋人」として扱っている。男女間のランク分けには大雑把な処理をするようだ。
    3年間のブランクを経て、今度は新進気鋭のバレリーナ、浅岡未緒に恋をする。その後の進捗状況は不明だが、未発展の場合でも、美貌のダンサーと大恋愛をした、と述懐する可能性があるので要注意。
  • その他1 大学卒業後の2年間は教員生活を送るが、「教師としては失格(『眠りの森より』)」と判断して辞職、警察官になる。教壇を離れるに至った詳細は『悪意』に記されているので、興味のある人は参照の事。
  • その他2 シリーズ第一弾である『卒業-雪月花殺人ゲーム-』において、加賀の父親の職業は警察官であることが紹介されていたが、第七弾の『赤い指』では、従弟も同業であったことが明かされる。警視庁捜査一課に勤務(2006年夏現在)する松宮脩平がその人。
『悪意』の登場人物一覧
加賀恭一郎(30歳前後) 警視庁捜査一課勤務・元中学校教師
野々口修 童話作家・元中学校教師
日高邦彦:作家・野々口修の友人 / 日高理恵:日高邦彦の妻・元編集者 / 日高初美:日高邦彦の前妻・交通事故で死亡 / 新見:日高家の隣人 / 藤尾正哉:野々口と日高の中学時代の同級生 / 藤尾美弥子:藤尾正哉の妹 / 大島:童子社(出版社)勤務・野々口の担当編集者 / 迫田警部:警視庁捜査一課勤務 / 牧村刑事:警視庁捜査一課勤務 / 三村:日高邦彦の元担当編集者 / 刀根:英語教師・野々口修の元同僚 / 篠田弓江:日高初美の実母 / 長野静子:日高初美の元同僚 / 藤原:国語教師・野々口修の元同僚 / 林田順一:理髪店店主・野々口と日高の中学時代の同級生 / 新田治美:主婦・野々口と日高の中学時代の同級生 / 円谷雅俊:元教師・野々口と日高の中学時代の担任 / 広沢智代:中学時代の野々口と日高を知るパン屋の店主 / 松島行男:野々口と日高の中学時代の同級生 / 高橋順次:野々口と日高の中学時代の同級生 / 三谷宏一:野々口修の高校時代の同級生 / 藤村康志:野々口修の叔父 / 中塚昭夫:野々口と日高の中学時代の同級生 / 辻村平吉:花火師 / 前野:加賀恭一郎の元教え子