11文字の殺人
作品DATA
11文字の殺人
  • 出版社 光文社/カッパノベルス(ISBN:4334027377)
  • 発刊日 1987/12/25
  • 文庫化 光文社文庫(ISBN:4334712541)
  • 文庫発刊日 1990/12/20
  • Detail 作者は『無人島より殺意をこめて』というタイトルを用意したが、出版社の要望で改題された。
    文庫の解説は宮部みゆきさん。
  • お薦め度 ☆☆☆
  • お気に入り指数 ☆☆☆☆
作品Outline
恋人を殺された女流ミステリー作家「あたし」は、担当編集者であり、友人でもある萩尾冬子の助力を得ながら、事件の真相解明に乗り出した。だが、調査は思うように進まない。その一方で、「あたし」の行動が引き金になったかのような、第2第3の殺人事件が起こる。

主人公である「あたし」と、犯人である「私」の、二視点一人称で語り継がれる本格長編推理。意外な結末が用意されている。

作品Review
2005年夏の文庫フェアで平積みになっていた『11文字の殺人』の帯には、こんな謳い文句が記されていました。
東野圭吾の傑作見つけた!
『11文字の殺人』は面白い作品だと思っていますが、このコピーには、少し抵抗を覚えました。購買意欲を刺激したいのなら、原題の『無人島より殺意をこめて』に戻した方が、より大きな効果を得られるのではないでしょうか?

さて本題―。
本作は、主人公である女流ミステリ作家が、とても魅力的に描かれています。
ヒロイン特有の華やかさや、探偵役にありがちな、超人的とも言える閃きや推理力を持っているわけではありませんが、上質な強さと優しさを兼ね備えた女性です。「あたし」の著作を読んでみたい気持ちにさせられました。

ネタバレになるので曖昧な書き方になってしまいますが、作中人物である「私」の恋人観にも、惹かれるものがありました。
平凡な人間なら、好きになった事を後悔しそうなエピソードまで、「私」は、愛すべき要素として捉えています。復讐なんてものを実行するには、「私」が抱いたぐらいの、容量の大きい愛情が必要になるのでしょう。

当然の事なのでしょうが、初期の東野作品と最近作では、男女の描かれ方に幾らかの変化が生じています。
初期作品には、凛とした強さを持つ聡明な女性が数多く登場しました。その一方で、男性陣の方はと言えば、狭量であったり未成熟であったりする場合が少なくありませんでした。
ところが、時代を追うに従って、男性が、少しずつ寛容になって行きました。
無論、全部が全部そうだというわけではありません。『ゲームの名は誘拐』の佐久間俊介や、『殺人の門』の田島和幸のような主人公もいます。
ただ、大きな枠組みの中では、一歩後ろに下がったところから女性を支える男性が増えて来ました。
女の独善と男の哀切を見る機会が増えて来た中で本作を読み返すと、色々な情景がとても新鮮に映り、偶にはこんな物語も書いて欲しいという思いに駆られました。

東野さんの作品には、色々な可能性を暗示した形で終わるものが少なくありませんが、本作でもその手法が取られています。
「あたし」には、もう終わりにしましょうよ、と声を掛けたいところですが、彼女はきっと戦い抜くのでしょう。武運長久(?)を祈るばかり―。

2005年10月15日に更新
『11文字の殺人』の登場人物一覧
あたし(30代半ば) 女流推理作家
川津雅之:「あたし」の恋人・フリーライター / 萩尾冬子:「あたし」の友人・「あたし」の担当編集者 / 田村:川津雅之担当の編集者 / 川津幸代:川津雅之の妹 / 新里美由紀:カメラマン / 山森卓也:「山森スポーツプラザ」の経営者・「ヤマモリグループ」オーナーの女婿 / 春村志津子:「山森スポーツプラザ」の事務員 / 石倉佑介:「山森スポーツプラザ」のインストラクター・山森卓也の実弟 / 山森由美:山森卓也の娘・視力が弱い / 山森由美:山森卓也の妻 / 村山則子:山森卓也の秘書 / 金井三郎:「山森スポーツプラザ」の従業員 / 古沢靖子:山森が主催した「クルージングツアー」の参加者 / 坂上豊:山森が主催した「クルージングツアー」の参加者・役者 / 竹本幸裕:山森が主催した「クルージングツアー」で海難事故に遭い死亡・フリーライター・ペンネームは相馬幸彦 / 竹本正彦:竹本幸裕の弟 / 久保:竹本幸裕(相馬幸彦)と親交のあった編集者 / えっちゃん:山森由美の友達・目の不自由な彼女に善意の世話を行っている / 中山:山森家の専属運転手 / 森口:Y島にある宿の経営者 / 田宮刑事:事件の担当捜査官