映画版『手紙』完成披露試写会レポート
2006年10月5日、新宿ミラノ座にて開催された、「『手紙』完成披露試写会」の様子を紹介させていただきます。
開場4時間前から並ぶ
12:24 「こだま」に乗って東京へ。
14:00 「新宿ミラノ」に到着。先頭から20番目ぐらいのところに並ぶ。尤も、その後に先頭グループのお仲間が増え、最終的には30番目ぐらいになる。
後方に並ぶ女子高生が『変身』を読んで待っている。妙に嬉しい。
18:00 開場。「ミラノ2」に入館。三区画に分かれた客席の内、中央部はプレス席、両側が一般客に割り当てられ、並び順に指定席券が配られる。但し、A列の8〜21番まではカメラマン席。私と家人の席はC-22とC-23。(「ミラノ2」の座席表はこちら)
18:50 山田孝之さんを先頭に、玉山鉄二さん、沢尻エリカさん、生野慈朗監督、そして東野圭吾さんが登壇。山田さんを中心に、続く登壇者が左右に分かれる。  
舞台挨拶
登壇者のコメントはlivedoorの動画ニュースに全て収録されています。

山田孝之さんは舞台挨拶で「テラタケ」を再現したのかも… 

山田さんの挨拶は、「済みません、遅れまして」という言葉から始りました。開始が遅れたことに対し、代表として詫びたものだったのか、山田さんが遅れた原因を作ったものだったのかは不明です。

壇上の山田さんは、言葉に詰まったり質問を忘れたりするので、「もしかしたら緊張してる?」「こうした、一般人を交えてのイベントは苦手?」と思わせる雰囲気が漂って来ます。けれども私には、全てが山田さんの観客サービスのように思えました。
客席の音声を拾っていない動画からは、周囲の反応が伝わり難いと思いますが、舞台挨拶の中で最も多くの笑いを取ったのは山田さんでした。作中で演じた漫才コンビ「テラタケ」のボケ役を再演するような調子で場の空気を和ませつつ、司会者の問い掛けには、簡単明瞭でありながらも来場者の心にしっかりと染み入る言葉で答えておられました。

「常に自分を追い込んでおかなければならない役で、それを40日間続けたので、鬱までは行かないですが、気持ちも毎日落ちて、このストーリーのように人がイヤになって――、だけど、頑張って何とかやりました」という発言の時には、私の前に並ぶ大勢の頭が、一斉にコクンコクンと揺れました。

舞台挨拶では賢兄だった玉山鉄二さん 

私生活でも、山田さんと兄弟のような付き合いをするようになったと語る玉山さん。この日は賢兄に徹し、山田さんの発言時には完全バックアップ体制で臨み、ご自身の発言時には、『手紙』の素晴らしさを誰よりも深く的確に語り聞かせてくださいました。

「服役することで、被害者の家族や被害者が満足できるわけではないし、もしかしたら、服役することは自分の自己満足なのかな?って思うこともある」という言葉がとても印象的でした。そしてその言葉通り、玉山さんが演じる武島剛志からは、常に自分の罪深さと真正面から向き合っている人間の悲哀や懊悩が見て取れました。

山田さんの発言時には少し心配そうな表情で見守り、沢尻さんの発言時には一言一言に大きく頷き、監督や東野さんの発言時には体をしっかりと声の方に向け、敬意を全身で表現しているかのような玉山さんは、『言葉にできない』魅力に溢れた方でした。

凛とした美しさを持つ沢尻エリカさん 

発言するまでの沢尻さんは人形のような可愛らしさで観客を魅了しましたが、口を開くと、凛とした強さを兼ね備えた美しい大人の女性に変容しました。「テラタケ」仕様の山田さんが発言する時だけは、白石由実子の表情になっていましたが……。

三つの時代を生きる由実子を演じ分ける作業が面白く、いい勉強になったと話されましたが、その発言どおり、映画の中の沢尻さんは、三パターンの由実子を、本当に見事に演じ切られました。

主役の三人を賞賛し続けた生野慈朗監督 

良い映画を作った、という自信から生まれたものかもしれませんが、山田孝之さん・玉山鉄二さん・沢尻エリカさんの賞賛に徹しておられたことが印象的でした。

東野圭吾発言集
この日の舞台挨拶で、東野さんは以下のような発言を残しました。

完成披露試写会を向かえての今の気持ち 

映画には、ハッキリ言って全然関わってないんで、自分がここにいていいのかどうかよく分からないんですけど――。
皆さん、素敵な三人の役者さんが直に見られて嬉しいと思うんですけれども、僕はこんなそばに居ながら、沢尻さんを……、横を見ていられない非常に辛い立場なんです。でもまぁ、かなりドキドキしています。

映画化を聞かされた時の心境 

変わった人も居るな、っていう――。映画にして面白いもんじゃないだろう、というふうに思っていたんで、最初は冗談だと思っていたんですね。

映画完成後に試写を見て感じたこと 

かなり原作を尊重して作ってもらってる分、なかなか自分じゃいいストーリーだな、とか思えない訳ですけども、一観客として見た時には、やっぱり三人の役者さん達の演技に感激しました。

来場者へのメッセージ 

小説を書くのに1年以上掛かったんですけれども、書いてる間、っていうか書く前から、メッセージとかそういうものは全然なくて、自分でも、この問題をどう考えたらいいのか、っていうのを凄く考えながら書いたので、「これで、こういうことを主張したいんだ」とか、そんなことは全然ないんですよ。
だから、自分の本も読んで感じて欲しいし、この映画も、皆さんの中で答えを出そうとかそんなことを思わないで、何かを感じてもらったら、それでいいんじゃないかなーと思います。
ただ――、
さっきから皆さんの話聞いてると、「これ、もしかしたら、すげーつまんない映画じゃないか」という風な、怯えてる人いるかもしれないんで……、
原作に忠実な部分はよく分からないんですけれども、山田君の漫才は面白いです。それは楽しみにしていいと思います。
真意が掴み取れなかった東野さんのコメント
東野圭吾さんのコメントには、今回に限ったことではありませんが、謙遜と自虐ネタの間をさまよっているような表現が数多く登場します。
そのため、「自分じゃいいストーリーだな、とか思えない訳です」「原作に忠実な部分はよく分からないんですけれども、山田君の漫才は面白いです」という言葉は、「自分では素晴らしい映画だと感じているが、原作に忠実に描かれた『手紙』においては自画自賛になりかねないので、口に出せない」という意味だと捉えていました。
ところが映画鑑賞後は、そうとは限らないかもしれないと思うようになりました。

映画版『手紙』は、直貴の夢見た職業をミュージシャンから漫才師に変更した以外は、東野さんが仰るように、「原作に忠実な内容」になっています。勿論、それ以外にも改変箇所はありますが、私のような素人から見ても、長編小説を121分の映像化作品にまとめるために必要な措置だろうな、ということが十分に察せられる変更です。
ただ、原作の中では読者の判断に委ねられた幾つかの事象に対し、映画ではある程度の方向性が提示されていました。「答え」と解釈できるものもありました。
勿論それは、多くの読者が願い、期待したと思われる世界観に添うものであり、方向性が提示されたことで、より大きな感動を得ることができるものでもありました。けれども、「答えを見出せなかった」と語る東野さんの気持ちに合致したものであったかどうかは不明です。

もしかしたら東野さんは、謙遜ではなく、本当に「よく分からなかった」可能性があるのかもしれない、という印象を持ちました。

素晴らしい作品ですから、皆さん、是非映画館に足を運んでください。
そして、私が掴み取れなかった東野さんの真意に対し、色々なご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

ネタバレなしの感想文
剛志を演じる玉山さんには、終始、圧倒され続けました。台詞や手紙の朗読がないシーンでも、その仕草から、剛志の中を錯綜する様々な思いが痛いほどに伝播して来ました。
ラストシーンは、映画史上に残る名演技だったと、映画のことをよく知らない私ですが、言い張ってみます。

沢尻さんは三つの時代の由実子を見事に演じ分けられました。ただ、標準語であればもっと大きな充実感が得られたようにも思えます。これは、私が関西出身ということに因るものなのかもしれませんが……。

山田さんは、武島直貴は元々山田孝之さんという役者さんを念頭に置かれて書かれた作品なのではないか、と思いたくなるほどに、役と一体化しておられました。また、寺尾祐輔役の尾上寛之さんと組んだ漫才コンビ「テラタケ」の熱演にも、大いに魅せられました。
先に、玉山さんの演技に圧倒されたと書きましたが、その基盤を作っていたのは、直貴そのものだった山田さんの類い稀なる才能に他ならないと思っています。

東野さんのコメントの中に「原作に忠実」という言葉が何度か出て来ましたが、平野に関しては、異なった解釈がなされていました。実在する量販店の会長役としての登場だったため、架空の存在である新星電機社長の言葉をそのままなぞることが叶わなかったのかもしれません。

老若男女、何れの世代にも深い感銘と与える『手紙』ですが、豊かな想像力と柔軟な精神を持った10代の若者に、是非ともご覧いただきたい作品だと思いました。