- 勝てて良かった - 東野圭吾さんと直木賞
『容疑者Xの献身』が、第134回直木賞を受賞しました。

賞に縁遠い作家と称されて来た東野圭吾さん―、
「秘密」で第52回日本推理作家協会賞を受賞し、無冠の帝王の座は返上しましたが、直木賞からはそっぽを向かれたままでした。
栄えある賞を戴いたというよりも、「ようやく取れた」との思いに包まれた読者の方が多かったかもしれません。

ここでは、「東野圭吾さんと直木賞」にまつわるあれこれを紹介させていただきます。

「勝てて良かった」-東野圭吾の受賞会見-
その第一報を伝えたのは、NHK「ニュース7」のメインキャスター、畠山智之アナウンサーでした。
東野圭吾ファンの皆さんは、「直木賞に…」に続く氏名の発表を、固唾を呑んで見守っていたことでしょう。

  • 畠山智之アナウンサーが読み上げたニュース原稿より抜粋
  • 第134回の芥川賞と直木賞が決まりました。芥川賞に、絲山秋子さんの『沖で待つ』、直木賞に、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』が選ばれ、実力派の作家同士の受賞となりました。(中略)
    直木賞を受賞する東野圭吾さんは、6回目の候補で受賞となりました。(東野圭吾さんの受賞会見の模様を紹介)
    東野さんは大阪市の生まれで47歳、昭和60年のデビュー以来、ミステリーを中心に書き続け、『秘密』や『白夜行』など、数々のベストセラーを発表している人気作家です。
    受賞作の『容疑者Xの献身』は、愛する女性を守るために犯罪に手を染めた数学者と、事件の謎を解明しようとする大学時代の友人の物理学者の対決を、数学者のひたむきな愛情に焦点を当てて描いた作品です。

  • 東野圭吾さんの受賞会見より抜粋
  • 落ちるたんび(度)にやけ酒飲んで、
    みんなで、選考委員の悪口言って、
    普通の人はできない面白いゲームやったなっていう―、
    (この面白いゲームを)出来ないのが、寂しくなるかなと思ったけど、
    ……、やっぱり、今日は、勝てて良かった!

  • 日本テレビ「ズームイン朝」で放映された受賞会見より抜粋
  • (「どんな心境で結果発表を待ったか?」という質問に対し)
    人並みにドキドキしながら、 掃除したり……、
    関係ない電話でびっくりしたり、という風なことを……、
    こういう時に電話掛けて来る奴がいるんスよね。
    直木賞候補になった東野圭吾作品
    直木賞候補になった東野圭吾作品は以下の6作品です。
    毎年のようにノミネートされては、恒例行事の如く、落選し続けた恰好です。
    「勝てて良かった」という言葉が重く響く、7年の歳月でした。
    幻となった現代用語「東野圭吾路線」
    第133回(平成17年上半期)直木賞に関する話題に触れた書評サイトを巡り歩いていたところが、ちょっと気になる表現を発見しました。
    初ノミネートになった人気作家に対し、「東野圭吾さん路線を歩みそう」という意見が数多く見られたのです。言い回しは「東野圭吾-路線/方式/タイプ」と様々ですが、「ノミネートされ、下馬評では結構いいところまで行くものの受賞は叶わない」という意味です。

    幻となった現代用語

    語句:[東野圭吾・る/路線/方式/タイプ]
    意味:直木賞候補にノミネートされるも落選し続けた挙句、旬を外してしまう事を言う。予備軍には真保裕一・伊坂幸太郎・黒川博行がいる。

    直木賞に関しては、特異な存在感を誇示し続けて東野圭吾さん―、 受賞してしまったことに、一抹の寂しさを覚えた読者も少なくなかったのかもしれません。

    直木賞とはどんなもの?
    直木賞の選考と受賞を行う財団法人「日本文学振興会」では、直木三十五賞を以下のように定義付けています。
    故直木三十五の文業を記念し、日本の大衆文芸に新生面をひらく有望な新人を選出し、賞金及び記念品を贈る。そして、芥川龍之介賞と共にその贈呈式及び披露を行う。
    対象は12月1日〜5月31日(上期)及び6月1日〜11月30日(下期)に刊行された大衆文学作品。日本文学振興会による予備選考を経て、1月及び7月に選考委員会を開き、その結果は「オール讀物」3月号及び9月号に場を借りて発表される。正賞は時計、副賞は100万円。選考委員は阿刀田高、五木寛之、井上ひさし、北方謙三、津本陽、林真理子、平岩弓枝、宮城谷昌光、渡辺淳一の各氏。
    また、直木賞の公式サイトである「文藝春秋」のホームページでは、以下のように紹介されています。
    直木三十五の名を記念して、芥川賞と同時に昭和10年に制定された。 各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)あるいは単行本として発表された短編および長編の大衆文芸作品中最も優秀なるものに呈する賞(応募方式ではない)。無名・新進・中堅作家が対象となる。 授賞は年2回。上半期(12月1日〜5月31日までに公表されたもの)の選考会は7月中旬、贈呈式は8月中旬。「オール讀物」9月号に掲載。下半期(6月1日〜11月30日までに公表されたもの)の選考会は翌年1月中旬、贈呈式は同2月中旬。「オール讀物」3月号に掲載。 選考委員は阿刀田高・五木寛之・井上ひさし・北方謙三・津本陽・林真理子・平岩弓枝・宮城谷昌光・渡辺淳一の各氏。

    「日本文学振興会」では
    日本の大衆文芸に新生面をひらく有望な新人を選出としているのに対し、
    「文藝春秋」では
    各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)あるいは単行本として発表された短編および長編の大衆文芸作品中最も優秀なるものに呈する賞(応募方式ではない)。無名・新進・中堅作家が対象と謳っています。
    前者は直木賞の精神、後者は実際の運営基準、というところでしょうか?

    直木賞と『容疑者Xの献身』
    直木賞は、作家に対する「功労賞」的な要素も含まれることから、受賞作が、その作家の最高傑作足り得ないケースも少なくありません。
    「永遠の候補者であり続けるなら、それでも良かった、
    だが、受賞するのであれば、その対象作は、著者の最高傑作との呼び声が高い『白夜行』や、その名を広く知らしめることとなった『秘密』であって欲しかった」
    と感じた読者もおられることでしょう。
    けれども私は、『容疑者Xの献身』で良かった、『容疑者Xの献身』だから良かったと思いました。

    ミステリと名の付くものが売れなくなってしまったこの時代に、不利が予想され、事実、先例も極端に少ない本格推理小説で直木賞を受賞することに、大きな意義を、――いや違うな、一ファンとしての妙なる感動を覚えています。
    多彩な作風で幅広い支持を集める作者が、「書けなくなって来ている(『名探偵の呪縛』刊行時の発言)」と語った本格物で新境地を開き、一時は難攻不落とさえも思えた要塞を突破しました。
    惜しまれ続けて来た『白夜行』の落選も、『このミステリーがすごい!2006年版』・『本格ミステリ・ベスト10 (2005)』・『週刊文春 傑作ミステリーベスト10』の第一位を独占し、直木賞で四冠を果たすという、前人未到の快挙を成すための布石だったようにも映ります。

    詮無い御託を並べてしまいました。申し訳ありません。
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